2022年3月の記事一覧
思いやり
子ども達を車に乗せて送るときの話です。Sさんは視覚障害のある子どもなので白杖をつきながら職員に声や音の聞こえる方に歩きます。
そんな中,同じ車に乗るU君がSさんの乗る車をトントン,と叩いて「Sさんこっちやで」と案内をしています。U君は以前までは自分の帰る用意を済ませると「先生帰る用意出来たで~,まだ~?」と言っていました。
自分のことしか見えていなかったU君がどんどん周りが見えるようになっていることに驚きました。名前も覚えず,「ん~わからん!」と言っていたのに「Sさん」とはっきり名前も言っています。
U君に理由を聞いても「え,いつも先生ら(達)してるやん」としか返ってきませんでした。「今までそんな素振りなかったやん…」と思いつつも「ありがとう!」と返しています。卒業間近になっても色々な姿を見せてくれる子ども達でした。U君はこの春卒業です。
落ち着くために、離れる事
Q君がみんなから離れてカームダウンをしています。他の子は活動中なので「なんでQ君みんなと離れてるの?俺ら活動してるのに」とR君がちょっかいを出しました。するとQ君は更に怒りが爆発してしまいました。
R君は「???」といった様子です。そんなR君に他の子が「あれはな,距離を取って落ち着こうとしているんやで。そっとしといてあげて。」と教えていました。R君は「そうなんや…」といった様子です。
また,Q君は落ち着くと最初に「先生,俺が暴れた事なんで怒らんの?」と聞いてきました。「怒っても解決しないしなぁ…それよりなんで怒ったかと,どうやったら暴れずに気持ちを伝えれるか考えた方が有意義じゃない?」と返すと「確かに…」と答えました。
Q君やR君のようにカームダウンについて教えてもらっていない子が多い事に驚きました。学校では通常学級でも個別の指導計画や個別の教育支援計画がある子どもには「カームダウンエリア」を設置し,「怒った時とかむしゃくしゃした時はここに来るんだよ。」と教えたりするものです。しかし実際事が起こった時にはどうしても「その場を鎮めなければならない!」となるのでしょう。興奮している子どもが落ち着いたら「はい,解決」としていることもあるようです。
大事なのは子どもに代替方法を教えることです。子どもは「またやってしまった…」と自己イメージを落としてしまいます。それよりも「俺(私),暴れずに先生に伝えられた!」と成功体験を積むことが重要です。
芽生えてきた
じゃんぷの療育(児童発達支援)に通う4歳のPちゃんは、最近言葉が増えて、文章でのお話ができるようになってきました。「わあ、大きい」「これソーセージみたい」「まずは、これします」と楽しそうにおしゃべりしながら、好きな課題に取り組んでいます。ただ、お話が増えた以外に、最近もう一つ増えたことがあります。それは「いや!」「こっちする」…自分の“つもり”です。
目で見て理解することが得意なPちゃん。療育に通い出した当初は、絵カードのスケジュールが嬉しくて楽しくて、しっかり見て、スケジュールに沿った行動ができていたのです。でも、最近は、スケジュールで示されているからといって、そうおいそれとは流れに沿ってくれません。特に、『かえる』のカードが嫌い。保育園も大好きなので『次に行くところ』として保育園の写真が出てきたら、喜んで玄関に向かっていたのは遠い昔。この間は、「まだ帰らない」と、ハッキリ言ってくれちゃいました!
さあ困ったぞ…と思いながらも、育ってきたPちゃんの自我に、ワクワクしている職員です。Pちゃんにも、やっと、自分で選ぶ力、相手と交渉する力の芽生えがあらわれてきたのです。この時期には、スケジュールにうまく沿えるかは二の次、三の次です。療育を一緒に見ている保護者さんは、お子さんの反乱に焦ります。『できていたのに、できなくなった』と問題行動に捉えがちですが、発達的な経過の中で自然に芽生えてくる姿の一つであることを説明し、お子さんの意志を受け止め、待ちながら、穏やかに交渉してみるよう伝えます。
言葉が増えてきたとは言え、まだ十分に自分の気持ちを表現することはできません。大人のように、相手に合わせて交渉する力もありませんから、時にはひっくり返ったり、すねたり、物を投げたり、実力行使で自分の“つもり”を主張する姿もあります。大人の力量でPちゃんの“つもり”を受け止めながらも、見通しを伝え、一緒に気持ちを切り替える方法を模索する、新たな試行錯誤が始まります。
視覚支援
Nちゃんが「公園に行こう。」と誘われても「嫌だ~」と言っています。状況はNちゃんがスケジュールを確認後,他の子がゲームをしている様子が目に入り,そちらに向かってしまった,という経緯です。
Nちゃんは小学校支援級の子ども達が外遊びやゲームをして盛り上がっているのを見ると「楽しそう!」と思って参加しようとする姿が見られます。
そちらに意識が向かい,スケジュールのことを忘れてしまったのでしょう。職員から「スケジュール見たでしょ,公園に行くよ。」と言われても「スケジュールを見たこと」を忘れているので言葉で言われても何が何だかわかりません。
口で言っても埒が明かないのでNちゃんのスケジュールをもう一度見せました。すると「行ってきまーす。」と準備を始めました。
自分のスケジュールを確認すると「あ,そうだった。」と思い出しました。
耳で聞いたことを頭の中で整理して情報を理解することは意外と難しいものです。Nちゃんは言葉は発するので「口で言っても動けるだろう」と思っていまいますが,案外理解していないことの方が多いです。
しかし視覚的に支援すると耳で聞くよりも目で見て「○○をする。」「○○君(さん)と一緒に遊ぶ。」等の情報が入りやすいです。初めからそれをしておけばNちゃんも「嫌だ~」と言わずに済みました。視覚支援は当然のことですが,改めて大事な事だ,と感じました。ごめんねNちゃん!
カームダウン
「T君、さっきはなんであんなに暴れて怒っていたのかな?」スタッフが聞くときっかけは覚えていないと言います。何しろ今まで皆が自分をディスって来たストレスが一気に爆発したのだといいます。でも、みんなはT君に声がうるさいとか近寄りすぎてボディータッチしないでとは言いますが、彼をのけ者にしたり馬鹿にしたりしたことは一度もありません。
T君はとても興奮しやすい子どもで、盛り上がってくると声が大きくなり、必要以上に友達に近づいてボディータッチが増えます。そもそもパーソナルエリアを侵されるのが嫌いな子が多いので、寄らないでということは何度も言われたかもしれません。それをT君は自分が避けられていると誤解しているのです。
怒りで興奮しそうな時に使う技を教えたけど覚えているかと聞くと、深呼吸という言葉は覚えていましたが使えていないようです。今度は、怒りで爆発するのをレベル5だとすれば、噴火前のレベル4では制御不能みたいだから、レベル3で深呼吸してみよう提案しました。そして、その結果を職員に必ず教えてほしいと伝えています。伝えてもらうことで、上手く行ったときにほめるきっかけが作れるからです。
ASDの子どもたちの場合、対人への誤解はかなり多いです。自分は嫌われている、遊んでもらえないと勝手に誤解しているのです。確かに相手との距離感がつかめないとか、一方的なところがあるのでトラブルが多く、叱られることが重なって自己イメージを悪くしやすいという課題はあります。しかし、大人が上手に介入すれば当事者も周囲の子どもも上手に学んでいきます。T君だけではありませんが、上手くサポートしたいと思います。