すてっぷ・じゃんぷ日記

今日の活動

「出来ない」の悪循環

「僕は〇〇が苦手で出来ないんや~」という子どもの声をよく聞きます。しかし案外それは本人の思い込みだった,ということも少なくありません。

例えば先日「国語は苦手なんや…文章読めんし…」と話していた子どもが国語のテストで高得点を取ってきました。その子は本をよく読んでおり,興味のあることに関しての知識は大人を優に超える程の知識を持っています。それだけ本を読んで内容を理解することができるので漢字を書くことは難しいにしても読解問題は解くことが出来ます。実際じゃんぷで取り組んだ時も「嫌だ~苦手や~!」と言っていた割に始めると「…あれ,出来るわ」と本人も驚いた様子でした。

さて,「出来ない」と思い込むということは周りから「出来ない」と思われていた,ということです。「ゴーレム効果」というものがあります。それは「ある人物に対して周囲の期待が低い場合、その人物は周囲の期待通りにパフォーマンスが低下してしまう」という心理学効果です。例えば仕事の中で「〇〇さんはどうせできないから…」という空気を職場で作ってしまうとその通りにパフォーマンスが下がってしまい,どんどん仕事が出来なくなる,ということです。反対に「ピグマリオン効果」というものがありますが,これは学校現場でもよく使われている言葉なので知っている方も多いと思います。

子どもは大人のことを本当によく見ています。子どもがこういった悪循環に陥らないよう,子どものことを適切に理解,評価して支援をしなければならない,と改めて感じています。

我慢するって?

11月に各小学校で就学時健診が行われました。ここで就学前の子ども達の健康診断を行うとともに,保護者の方への説明会や就学相談をする機会もあります。

また,30分ほどの時間を使って就学前の子ども達が教室で絵を描いたりする時間があります。そこで小学校の教員が子ども達の様子を確認します。就学児健診後の話の中でよくあげられるのは「指示通りに絵を描いていなかった」「友達と話すのが止まらなかった」「座っていられなかった」といったことです。

この中でも注目されるのは「座っていられなかった」です。そして「どうやって座らせることが出来るか」等の話から始まります。

しかし発達段階のことをよくよく思い出すと,あることに気が付きます。

「我慢する」というのは概ね4~5歳半の時に形成される社会性です。当然発達というのは子どもによって様々なので就学直前にここまで至っていない子どももいます。

教員の立場からすると学級経営のこともあり,「どうやってルールを理解してもらおうか」という視点になりがちです。(筆者もそうでした…)しかしそこまでの社会性が形成されていない子どもに「ルールだから」と教えてもわからないのは当然のことです。

そうではなく,その子の強みを見極め,それを活かせるような支援が必要です。その子の興味関心,視覚,聴覚…etc その子にとって最大限のパフォーマンスが出来るように関係機関と連携しながら支援が必要でしょう。

話は逸れましたが,「我慢する」がまだ形成されていない子どもにはその子の強みを活かした支援をし,「ルールを守れた」という事実を作ってあげることが大切です。また,「我慢する」ということは「真ん中を意識する」ということです。(「やる」か「やらない」だけの世界なので「やりたくないけどちょっとやってみる」という真ん中です。)

真ん中を意識するような遊びが有効かもしれません。積木を階段状に積む,お盆の上にボールを置いてそれを落とさないように運ぶ等々…発達段階を見極め,それに合った遊びや活動がたくさんあります。今後もそれを紹介していこうと思いますね。

「僕に任せて!」

 先日、支援学校高等部生のQくんが、同級生のRくんといっしょに、ペットボトルつぶしの協力作業に取り組んでいました。自分たちで作業の準備を終えると、Qくんは職員に手のしぐさでサインを出しました。「自分たちで作業するから、離れていて」。そして二人で作業を始めます。ペットボトルのラベルを外すのに苦戦しているRくんに、Qくんはそっと手を差し出し、「R君、手伝っては僕に言って。」と言いながら、ペットボトルを受け取るとラベルの端をこすり、ラベルを取りやすい状態にして、Rくんに渡しました。そして二人でペットボトルつぶしをやり切り、職員に「2人で終わりました」と報告しました。

 Qくんは少し前までは、作業に自信を持てていませんでした。ドッグ棒(ホットドッグ用の太くて先が丸まっている串)を10本ずつまとめる作業では、やり切れるか不安で職員を呼び、それでも本数の間違いや、向きの間違いがたびたび見られました。自立してできるようになってほしいと職員は一考し、10本並べてから袋に入れられるようにジグ(補助道具)を作成しました。

 ジグを見るとQくんは「これなら僕にもできそう。」と言って、すぐに飛びつき、作業に前向きに取り組むようになりました。ジグを使って作業に正しく作業を終えられることが増えてくると、Qくんの姿に変化が。自信を持って作業に取り組めるようになり、職員にも「離れてて」と示して、自分でやり切れることが増えていったのです。空き缶やペットボトルつぶしの作業も自信を持ってやり切れるようになっていき、それが協力作業にもよい影響を与えるようになりました。

 自立的にチャレンジするということは、時には不安が付きまといます。その不安を職員が受け止めるだけではなく、こうしたらうまくいくということを提示することも、支援の大事な中身です。自立して作業できるようになったことで自信を持てるようになり、協力作業で友だちを手伝ってあげている(それも友だちができる部分を残す形で!)Qくんを見ていると、この仕事をやっていてよかったと心から思えてきます。

ソーシャルスキル

先日友人からこのような話を聞きました。

「Aさんと買い物行ったときに〇〇円以上買ったら特典がつくんやって。それでAさんの金額が少し足りなかったから俺の買おうとしてたやつを『勝手に』会計一緒にされたんやけど(笑)」

その話を聞いた時に「なぜだろう?」と考えましたが,Bさんの視点から考えると「もう少しで特典がもらえる」→「一緒に買っちゃえばいいよね」→「よし一緒に買おう」という思考になったのではないでしょうか。

この話のどこに問題があったかというと「『勝手に』会計を一緒にした」というところです。友人も(笑いながら)「一言言ってくれればよかったのにな~」と話していました。

この話を聞いた後にソーシャルスキルのことを思い出していました。ソーシャルスキルトレーニングでは、対人関係や集団生活を営みやすくするための技能(スキル)を養います。

子どもでもよくあることで,特に対人関係において人の表情を読み取る,場の空気を読む等が苦手な子どもはソーシャルスキルトレーニング(以下SST)を学習の中で取り組むこともあります。

じゃんぷに来る子ども達は「自分の話聞いて~!」と自分語りが止まらない子ども達もいます。そういった子ども達に対しては最初にスケジュールを見せ,学習の合間に「お話タイム」という項目を作って「この時間に話聞くから楽しみにしてるね!」とポジティブになるような言葉を使いながらSSTをしている子どももいます。

こういったことに関しては同法人のすてっぷの方がよく取り組んでいます。今までの記事にもSSTとは書いていませんがそれに繋がることを書いている記事がたくさんあるのでぜひ読んでみてください。

 

体重移動の学び方

 すてっぷでは、支援学校の中学部生や高等部生の作業課題として、アルミ缶やペットボトルの分解・つぶし作業に取り組んでいます。つぶす本数を始めに確認し、自分で準備片付けをして、終わったら報告するまでを自立して行えるように練習しています。協力作業が課題となる子らが複数で取り組むこともあります。

 中学部のPくんも、アルミ缶つぶしの作業課題に取り組んでいます。ただ、アルミ缶をつぶす際に、すてっぷではプレス器に足を乗せて、ぐっと体重をかけてつぶすのですが、Pくんはこの体重移動がなかなかうまくできず、缶をきれいにつぶせませんでした。しばらくは自立的に行うことや、協力作業の際のコミュニケーション課題と並行して行ってきましたが、プレス器の使い方はなかなか上達しませんでした。

 ある日のこと、この日もPくんはアルミ缶つぶしの作業課題に取り組んでいました。やはり、アルミ缶は上手につぶせず、職員が見本を見せていました。すると、Pくんは近くにあった「てつだって」の絵カードを手に取り、職員に渡してきたのです。職員が「わかったよ。じゃあいっしょにつぶそう」とPくんの手を取り、プレス器を踏むのを待ちました。そしてPくんがプレス器を踏むと、ぐっと手を引き寄せ、Pくんの体重がプレス器にぐっとかかるようにしました。そして、それを何回か繰り返しました。

 するとPくんは、体重移動のコツをつかみ、次の日から自分だけでプレス器を上手に使えるようになったのです。上からの指導や指示ではなく、本人のアクションに合わせて本人本位の形で伝えられたことが、功を奏したのかもしれません。今ではPくんにとってアルミ缶つぶしの作業は、自信をもってやり切れる課題の一つになり、協力作業でも友だちをリードすることが増えてきました。自立してできるようになったことが本人にとってとてもよい影響があったことをうれしく思うと同時に、これからもどんどん増やしていけるように支援していきたいと思った出来事でした。