すてっぷ・じゃんぷ日記

今日の活動

掛け算

長い春休み、宿題プリントも出ています。2年生のA君は、山盛りの漢字と掛け算のドリルです。「4×=28」の前でA君は無言で唸っています。同じ手の問題が20題ほど並んでいます。しかも毎日・・・。「これ使えばいいよ」と掛け算のマトリックス表を渡しました。「ありがとう」とA君。でも家では「こんなもん使えるかーい」とプライドにかけて使わないそうです。

そもそも、掛け算を記憶するのは誰でもできることではないということが世の中にはあまり知られていません。記憶は短期記憶から長期記憶に渡されていくのですが、その前にワーキングメモリ回路があり、3つの回路があると推測されています。視空間スケッチパッド・エピソードバッファ・音韻ループです。この音韻ループは音声の記憶回路です。これに、掛け算の記憶と演算は関係しています。

そして、これら3つの回路は独立しつつもお互いを補完し合います。だから聴覚記憶や音声だけに頼るのではなく視覚記憶にも意味記憶にも働きかければいいのです。「九九の表なんか幼稚」ではないのです。音韻ループの回路が弱ければ視空間スケッチパッドの強みを生かせばいいのです。エピソードバッファにおいて掛け算の意味が分かって記憶されているならば、決してカンニングではないのです。やがてはそのマトリックス表と指の動きが記憶され音の記憶に結び付くはずです。

 

 

 

コンビニでお買い物

もうすぐ春休みですが、武漢ウィルスの一件で学校休校のため、放デイの感覚では長期春休み3週目、やっと半分まで来た感じです。その関係で、子どものお弁当が作れない家庭もあり、コンビニ弁当を買いに行く日が続きました。

Zさんは、お買い物と言えばお気に入りのペットボトルジュース、コンビニと言えばそれを買いに行くルーティンが出来上がっています。いくら、お買い物の前に、「スパゲッティーお弁当買いに行こうね」と言っても、あの「7」の看板を見るなり、そそくさと駆け足となり、自動ドアが開いたら飲み物冷蔵庫の前でお気に入りを探しています。それを「違うよね」と修正しようとでもしたら、お店の中で混乱状態になるので、「ちょっとちょっと」とお店の外に連れ出し、「スパゲッティーお弁当だよね」と何度も念を押すことになります。

スタッフから、なんでリマインダー使わないのかと質問が出ました。正しい答えです。Zさんは少しお話ができます。お話の出来る人には絵カード支援は正直めんどくさくなります。絵カード支援の効果を知らないスタッフであればあるほどめんどくさいのです。言葉でかたずけたくなります。

でもでも、よく考えてみれば私たちだってお話はできますが、加齢とともにどんどん記憶は怪しいです。加齢じゃなくても聴覚記憶の苦手な人はいますし、苦手じゃなくてもメモしたりスマホに覚えさせたりしています。知的障害のある方の一番の特徴は、聴覚的ワーキングメモリーや短期記憶が極めて弱いことが挙げられます。言語的情報が入りにくいという事は「~したら~」という新しい文脈も定着しにくく、「コンビニ行けばお弁当買う」が入ってこず、これまでの「コンビニ行けばジュース買う」のルーティン行動が変更しにくいのです。

知的障害の人たちは頑固な人が少なくないと言われることがありますが、それは性格ではなく聴覚的短期記憶や言語力の弱さから頑固に見えるだけです。逆言うと頑固な姿は視覚的支援の少なさから生じているかもしれません。(それだけではないけど) ぜひ、お話ができる人であっても見れば思い出せるようにリマインダー支援をお願いします。

自尊感情と山のぼり

Y君が、山登りはしんどいから嫌だ」と朝から予防線を張ってきます。今は全日プログラムなのでずっと室内と言うわけにもいかないし、ずっと公園と言うのも芸がないので、お天気の日は朝一西山に登りに行きます。と言っても、近所の光明寺までは車で行くので、往復2キロ30分で高度差200mもありません。山登りと言うよりは散策に近いです。

今日は保育所の年長の子どもたちとも出会いました。保育所から全て徒歩なので往復4キロは歩いています。なのに小学生高学年にもなって坂道が耐えられないのです。トホホ。

でも、小さい時を思い出すと、マラソン大会とか山登りとか嫌でしたと言う人はたくさんいます。あの嫌さ加減はイケイケの大人が、自分のペースを崩してくるのでしんどいのです。だから、決してイケイケとは言わないのですが、それでもしんどいことは嫌なのだそうです。「もうちょっと、もうちょっと」と思って歩いて、必ず行きつく山だからこそ、だんだん強くなっていく自分が分かるので、自尊感情の形成には最高なんですが、やっぱだめですかー。困りました。

 

感染が怖くて外出できない

Wさんが、武漢ウィルス感染が怖くて外出できないそうです。毎日、垂れ流されるコロナの報道はASD児には迷惑な話です。以前にも、イラク戦争の映像が四六時中流されるのでいつ戦争に巻き込まれるか心配で夜も眠れず疲弊していったASDの中学生のことを思い出しました。

考えてみれば、テレビの報道は10万分の1以下の感染例を挙げているにすぎません。人口1億で1000人が感染しているとすれば確率10万分の1です。飛行機が落ちる確率は10万分の1未満ですから、ほぼあり得ない確率だということがわかります。

10万分の1の確率をイメージするには、サイコロで同じ数字が6回出る確率が約5万分の1で、7回続けてなら28万分の1です。こんな確率で感染すると考えればイメージしやすいです。しかも感染しても子どもは軽症です。こういう情報をメディアがしっかり流さないから、根拠もないのに苦しむ人が出るのです。

でも、イタリアでは二千人近く死亡していると連日報道しています。これは軽症でも感染した市民が病院に押し寄せ、パニックで医療に機能不全が生じたのが原因とのことです。パニックというバイアスがかかっているものを確率換算するのは科学的ではないですが、それでもイタリアの人口比で考えれば、死亡率は2万5千分の1です。日本は3/18で24名だから500万分の1です。ちなみに2019年の交通事故で死亡する確率は3万分の1だったそうです。これは1年の確率ですから3か月に換算すればいいことになります。外出にはいろいろリスクはあるけれど、リスクの確率をよく知っていれば、必要以上に怖がらず正しく警戒できるようなると思います。

 

エラー修正

U君は、「ジュースが欲しい」「クッキーが欲しい」等、事業所での簡単な要求なら絵カードで自発のコミュニケーションができます。ただ、学校等では「あーあー」と大きな声を出せば「どうしたの?何が欲しいの?」と聞いてくれるので、大きな声は要求のきっかけを作る行動にもなっています。

ある時、U君が「あーあー」と大声を出しているので、U君が公園に行きたいのだと思い連れ出した、とスタッフから報告がありました。そこで議論になったのは、大声を出すと公園に連れて行ってもらえると誤解しないだろうかという事です。「それなら、彼の欲しいもの(公園に行く)がわかっているので、絵カードを出させたら良かったですね」と意見が出ました。正しい意見です。問題はどうやって間違った行動を絵カード表出行動にもっていくかの修正方法です。

ABAの手法には、適切な行動の教え方はあちこちに掲載されているのですが、間違った行動を修正する方法があまり紹介されていません。当事業所が知る限りは、PもECSの4ステップエラー修正のみです。これは、モデル・プラクティス・スィッチ・リピートの4段回の修正方法のことです。

絵カード交換コミュニケーションだけでなく、修正はいろんな場面で必要です。なぜ修正方法に注目するかと言えば、マニュアルがないと人によっていろんな修正をするからです。結局、修正する人の指導スキルの違いがその子に混乱を与えるだけでなく、指導方法そのものの信頼度を失墜させかねないからです。また、仮にその修正方法に間違いがあっても、やり方が違えばどこを修正していいかわからなくなります。マニュアルを小馬鹿にする人がいますが、それは効果がないのに検証されずに続けているマニュアルが少なくないからです。本来マニュアルはバージョンアップするためにあるのです。行動修正は4ステップエラー修正でお願いします。