みんなちがってみんないい
えほん障害者権利条約(英語版)
「19人の命忘れない」障害者権利条約の理念を伝える絵本の英訳版を発行 やまゆり園事件4年
2020年7月28日 13時50分【東京新聞】
障害者への差別禁止や社会参加を保障する「障害者権利条約」をテーマにした絵本の英訳版が、26日に全世界に向け発刊された。この日は2016年に相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者19人が殺害された日。絵本の作者は「新型コロナウイルス感染拡大の影響で、事件を考える企画が思うように進められない中、『忘れない』との気持ちを込めた」と話す。
英訳されたのは絵本「えほん障害者権利条約」(汐文社)。NPO法人の日本障害者協議会(東京)代表の藤井克徳さん(71)が15年5月に日本語版を出版した。国連で06年に採択された権利条約を日本が14年に批准したのを受け、条約が生かされれば誰もが住みやすい社会になることを幅広い世代に知ってもらうためだった。
藤井さんは生まれつき弱視で、7年前に失明した。音声が出るパソコンを使い、国連で誕生した条約が世界各国に広がっていく様子、障害の有無に関係なく、さまざまな人たちがともに暮らす街の場面を執筆した。絵は静岡市葵区の障害者施設「ラルシュかなの家」管理者の佐藤啓さん(43)が版画で描いた。
英訳版を企画したのは、難しいと敬遠されがちな条約を、世界の人たちにも絵本の形で分かりやすく伝えたいとの思いから。「欧米でも条約が社会に浸透しているとは言い難い。子どもたちだけではなく、欧米やアジアの政府関係者や障害者団体のリーダーたちにも読んでもらいたい」。翻訳は上智大准教授渡辺剛弘さんと、渡辺さんの妻暁あか里りさんが担当した。
発行日の26日は、津久井やまゆり園で殺害された入所者19人の命日。事件を起こした植松聖さとし被告への死刑判決が確定して以来、初めて迎える節目となった。事件では、植松死刑囚の「障害者は生きる意味がない」などとの優生思想的な発言が注目された。
23日には、難病患者の依頼を受け薬物を投与し患者を殺害したとして医師2人が逮捕された。医師の1人は「高齢者を『枯らす』技術」といったブログを出していたとみられる。藤井さんの法人は毎年、事件を通し優生思想などを考えるフォーラムを開いてきたが、今年はコロナの影響で開催を断念。藤井さんは「不十分だった裁判について正面から考え、問題が終わっていないと確認したかったが、せめてこの日に本を世界に発信することで、19人を弔いたい」と話している。