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「あ」からじゃない「覚え方」

遊び 連想し「ひらがな」ながら学習 「あ」からじゃない「覚え方」に焦点
【東京新聞】2020年7月21日 07時03分

つかむの「つ」、静かにしぃーのポーズで「し」、くちばしの「く」…。埼玉県の小学校教諭佐藤智子さん(53)が、ひらがなの「覚え方」のポイントを盛り込んだ絵本を作った。ひらがな学習にこだわった背景には2人の教え子の存在があった。ひらがなの学習といえば、「あ」から始めると思われがちだが、佐藤さんは画数の少ない字から教える。形を見せ、声に出し、子どもたちに手や体を動かしてもらって、文字の形とイメージを結び付けることを大切にしている。黒板に「へのへのもへじ」の絵を描いて、文字を探させたり、両手で羽の形を作った、ひよこのポーズから「ひ」を教えたりもする。

簡単な字を覚えたら、次は足し算。「棒(|)」+「ろ」=「わ」、「ち」+「し」=「を」といった具合だ。「座らせて何度も書かせると、子どもは飽きてしまう。学習の土台となるひらがなは楽しく身に付けてもらいたい」と話す。約二十年前、佐藤さんが初めて一年生を担任した時、教科書通りに「あ」から教えると、何度やっても書けない子がいた。どうしても不格好になる。「ひらがなでこんなにも苦労する子がいると知らなかった」。先輩教諭の助言を受け、一画で、左利きの子でも簡単な「し」から工夫して教えると書けるようになった。数年後、二年生で担任をした子も習ったはずのひらがなが読めず、書けなかった。給食の準備時間に個別に一字ずつ教えると読み書きができた。「教え方一つで、ひらがなを覚えられる子が増える」と実感した。

佐藤さんは自閉症の次男の育児に手がかかり、退職を考えた時期もあった。でも、学校に行くと、ひらがなが書けなくて困っている子が待っていた。「あの子たちがいたから、仕事も続けてこられました」そんな二十年間のひらがな指導の経験や思いを詰め込んだのが、絵本「ひらがなものがたり」。ひらがなの国の王子と姫が赤い石を奪った竜と闘う物語で、全てのひらがなが入るように構成。絵本を見ながら字を探し、遊びながら覚えることを目指している。

ひらがな学習本は「あ」から、はねや止めなど書き方に力点を置いて解説する本が多いという。「覚え方や教え方に焦点を当てた本は少ないのでは」と佐藤さん。今年はコロナ禍で、家庭でひらがなを学んだ子もいるだろう。「ひらがなでつまずき、学習へ向かう心の扉を閉じる子がいないように。困っている親子に絵本を届けたい」と語る。


絵本はぶどう社刊、税込み千三百二十円。問い合わせは同社=電03(5779)3844=へ。
文・奥野斐

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視覚情報だけでなく、体性感覚やエピソード記憶で文字を指導する方法は、心ある教師があれこれと開発してきました。佐藤智子さんの取り組みもその一つです。子どもたちのまわりに何人の佐藤さんを得るかが子どもたちの学習のイメージを作ると言っても過言ではないです。子どもの学びをあれこれ言う前に、「教え方にセオリーはない」「違う学び方をする人」という柔軟な思考を指導者が学ぶ必要があります。