2020年9月の記事一覧
何を支援したいのか?
Ⅰ君がスケジュールを見ないので、スケジュールを見るように声を掛けたらいいかどうかが議論になっていました。「ところでⅠ君首からスケジュールぶら下げているけど、あれは何のため?」「Jさんの見通しを戸外でも持たせるために、携帯スケジュールにしてもらったら効果があったから、Ⅰ君にもつけてもらっている」「K君がぶら下げているから自分のも欲しかったようなので作ってあげた」「???」
Ⅰ君のスケジュール支援の今の狙いは、「スケジュールを理解する」ことです。つまり、スケジュールが何の役に立つのかどう使うのかも分かっていないのです。Jさんの戸外の見通しが持てるようにするためのスケジュール携帯とは目的レベルが違います。しかし、こうした目的を理解しないまま使う視覚支援ツールの与え方は「現場あるある」で、あちこちで見られます。
他の人でうまくいったから、この人にも使おうというのはまだいいほうです。目的も分からずに格好だけ真似した「視覚支援」グッズを使う人のなんと多いことかと思います。武漢風邪のマスクと同じです。マスクで感染予防できるとは思っていないのに、みんながつけるから付き合いでつけているだけという現象とよく似ています。
視覚支援のつもりだろうけど、そのグッズの使い方はこの子にあってないよね、という様子はあちこちの学校や園で見受けられます。今回は、I君はまずスケジュールの使い方を理解する事が優先課題です。首からぶら下げていても肝心のスケジュールを見なければ役に立ちません。
スケジュール理解の最初のトレーニングは、子どもが場面の切り替えの度に、カードを貼ったり入れたりする操作をすることでだんだん理解していくのです。与えてすぐに理解できる子は多くはありません。スタッフが何を教えたいのか狙いを持ち、マニュアルに添って子どもの理解レベルにあったスケジュール支援をお願いします。
集団活動ができない障害やねん
H君に、放デイのない日はどうしているのと聞くと、誰とも遊ばずに家にいると言います。彼は保育所時代から同じ地域に住んでいるので知っている子はたくさんいます。でも皆共働き家庭なので顔見知りは学童保育所に行っており、声をかける人がいないそうです。
H君も学童保育に行っていたのですが、集団活動でつまづいてしまい、学童保育を嫌がってやめたそうです。「僕は集団活動ができない障害があるからみんなとは遊べないねん」と言うので「放デイでみんなと遊んでいるじゃないの」とフォローすると、「それはそうやねんけど」とあとの言葉が続きません。
確かに彼は空気を読むのが苦手で、必要以上にはしゃいでしまったり、自己抑制ができなくなる事があります。しかし、そんな子どもはどこにでもいます。まずは、職員集団がそのように子どもを理解し支援するのは学童保育も放デイも同じことです。ただ、当事者が嫌がるのは当事者の責任ではありません。どんなにサービス提供者が正当性を並べても、提供したサービスを評価するのは当事者です。
学童保育をやめたのは当事者家族の選択で、行政側が断ったわけではありません。けれども、彼は「僕の障害が友達と遊べなくしている」と考えてしまい、放デイのない日は部屋の中で過ごしています。当事者の困難度によって支給量は増えたり減ったりするのが公平というものです。週三日という地域の「標準」支給量に縛られて、放デイの支給量を増やすことはまかりならないというなら、公助とは一体何のためにあるのかと思います。
バースト現象とギャンブル理論
Gちゃんが、最近大声や奇声をあげて拒否したり要求したりするのけどなぜだろうという報告がありました。GちゃんはASDで、入学当初、機能的コミュニケーションがうまくいかず、要求が叶わないと大声をあげたりしていました。そこでPECSや機能的コミュニケーションに取り組み始め夏ころにはとても穏やかに要求や拒否ができるようになっていたのです。
学校が始まり、新しい事業所にも通い始め環境に変化があったのは当然ですが、この落ち込みぶりは激しいなぁと感じています。以前は、だんだん声が大きくなる感じでしたが、最近はいきなり奇声で「ぎゃー」と叫びます。これはABA理論ではバースト現象といって、不適切行動で相手が反応しないのでさらに大きな声や不適切な行動を修飾して要求を実現しようとする現象です。つまり、かなり日常的に不適切行動が無視されていることが推測されます。
大事なことは、不適切行動をスルーして無視することではなく正しい要求の仕方をエラー修正して教えることです。「そんなことで要求をかなえるとずっと大声を出すから反応しちゃだめ」という人がいますが、泣く子と地頭には勝てないのが世の常です。結局、激しい不適切行動の後要求がたまに実現したりするのです。
この「たまに」というのはもっと良くないのです。「ギャンブル理論」といって、たまに要求が実現するほうが行動は強化されてしまうのです。だからかけ事がやめられない人が多いのです。エラー修正で行動を修正して正しい要求実現の方法を教えることと、もう一方で、まってね・今はダメを、大暴れするような修羅場ではなく、我慢できそうな訓練場面で少しづつ教えていくことが大事なのです。
読み書き障害に対応した学習支援プログラム 【じゃんぷー1】
おかげさまで、当法人の新しい発達障害対応の事業所「じゃんぷ」が10月よりオープンします。「じゃんぷ」の支援コンセプトは「エビデンス・ベースド・プラクティス」つまり「根拠に基づいた支援」です。
あちこちの事業所のホームページをみると、必ず「発達障害」児の様々な支援がうたわれており、その支援も「ソーシャルスキルトレーニング(SST)・学習支援・個別療育・集団療育」とか「TEACCH 感覚統合療法 ソーシャルスキルトレーニング(SST) 学習支援 個別療育 集団療育 預かり支援」「応用行動分析(ABA) 感覚統合療法 言語療法 作業療法 理学療法 遊戯療法 音楽療法 運動療法 ソーシャルスキルトレーニング(SST) 学習支援 個別療育 集団療育 」などなど聞いたような療育が並びます。しかし、これらのどの療法にしても正確なアセスメントを行い個別化しないと取り組めません。それは、利用する子どもたちの凸凹のパターンや凸凹の開き方が違うからです。
「じゃんぷ」でも、幼児にはSIT(Sensory Integration Therapy;感覚統合療法)や小学生にはSSTや学習支援にABA理論に基づいて取り組みますが、こういう個別化した取り組みはアセスメントや評価をしっかりとらないとやっているだけになってしまします。子どもが楽しければいいのならそんなに難しいことは言わなくてもいいのですが、それですらなぜ子どもが楽しいのか、なぜ取り組もうとしないのかという仮説や根拠が必要です。
また、どの放デイにも「学習支援」と掲げられてはいますが、どんな学習支援をするのかは示されていません。「すてっぷ」のように宿題を手伝うことなのか、「じゃんぷ」のように保護者や子どもと契約して特別の個別学習プログラムを実施することなのかで、支援の密度も手法も変わります。
特に発達障害の子どもにみられる、読み書き障害(音韻障害を主とするもの)にどうアプローチするのかは、学校でも知らない先生のほうが多いです。じゃんぷは、認知特性だけでなく音韻意識の流暢性アセスメントをして、この問題に本格的に取り組もうとしています。おそらく、京都府の放デイでは初めての取組になるかと思います。
今回から、「じゃんぷ」の目指す支援について少しづつ紹介していきます。
「マジックジュース」サイエンス
高学年のD君E君と低学年のF君を読んで「マジックジュース」の実験をしてみました。「マジックジュース」とは、色が変わったり、泡が出てきたり、液体が混ざらずに重なったりする、まるで魔法がかけられたように変化していくジュースの実験のことです。
毎度掲載しているように、高学年児は同じ遊びばかりでは放デイの生活に退屈してしまいます。かといって低学年や重度の障害の子どももいるのでグループ分けはしますが完全に分離してしまうと、多様な人がいる生活の良さを生かせません。この匙加減が大変難しいです。そこで、たまに、高学年の興味関心を引き付ける内容を投げ込むことが大事です。
今回のマジックジュースは、グレープジュース(30ミリリットル)に重曹小さじ4分の1を入れて変化を見ました。「お~色が変わる!!」高学年の二人は大興奮。(ん?理科の実験って最近しないのか?)グレープジュースには「アントシアニン」が入っています。色は紫で、ほぼ「中性」です。アントシアニンにアルカリ性のものを混ぜると青くなり(グレープジュースでは黒っぽく見えます)、酸性のものを混ぜると赤くなります。重曹はアルカリ性です。グレープジュースが黒っぽく変わったのは、重曹を入れたことでアルカリに変わったからです。
D君は「リトマス試験紙と同じか」と推測。E君も「もっといろいろ混ぜてみよう」と乗り気です。ところが低学年のF君は「高学年の勉強やしおもろない」と逃げていきました。見えないものの変化に法則性を見出すのは9~10歳ころと言われているので無理ないとは思いますが、興味なさすぎでスタッフはがっくりしていました。
あとは、酸性のクエン酸(柑橘類の汁)では赤くなり、クエン酸と重曹では泡が出るなど楽しいミックスジュース遊びに、高学年は沸いていました。