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スクールカウンセラー配置3万件も不登校減少つながらず

スクールカウンセラー配置3万件も不登校減少つながらず

11/4(木) 【産経新聞】

さまざまな理由で学校に通えない小中学生をケアしようと学校を起点に子供や保護者の心理的なサポートを担う「スクールカウンセラー(SC)」の配置が全国の自治体で広がっている。一方で、令和2年度の不登校の児童生徒の数が19万6127人と過去最多となり、SCの増加が不登校の減少に必ずしもつながっていない。財務省も国の事業の改善点を探る調査でSCの資質向上の必要性を指摘するなど、SCの制度自体の改善を求める声も上がる。

文部科学省は平成7年度からSCの配置を始め、その職務を「不登校や、いじめなどの問題行動の未然防止、早期発見および対応」などとした。配置件数はほぼ毎年増え、令和2年度に計画された配置は3万件超。一方、同省の調査では不登校の小中学生は平成24年度から毎年増え続けている。

不登校増加の背景には、無理をして登校しないことも選択肢の一つと捉える社会認識の変化もある。だが、いじめの認知件数も25年度から令和元年度まで毎年増加。2年度は減少したが、新型コロナウイルスによる休校などが要因とみられ、SCの配置の成果に疑問符がつく状況にある。

文科省は「個別に見れば、SCのサポートで不登校から学校に復帰した例もある」と評価。一方で、ほとんどの自治体では1校あたりのSCの勤務日が週1日以下のためきめ細かな対応が難しいとし、SCの人数や勤務日数を増やしたい考えだ。

だが、SCが常駐して常に子供たちを見守り、保護者にアドバイスできる環境があれば不登校の防止につながるとはかぎらない。全国で唯一、SCを全市立中学に常駐させる名古屋市では、段階的にSCの常駐配置を始めた26年度から、不登校の生徒が毎年増え続けているのが実情だ。

財務省では毎年、各省の事業から計数十件を選んで有効性や効率性を調べる「予算執行調査」を実施しており、今年度はSCが対象になった。この調査では自治体への聞き取りも行われ、多くの自治体が「SCの資質向上が課題だ」と回答。これを受け、財務省が9月に公表した調査結果では、文科省に対し、SCの配置効果を検証する際の基準を示して効果的・効率的な配置ができる仕組みを求めるともに、「現在配置されているSCの資質の向上が最重要事項」と指摘した。

■専門資格の創設 検討が必要

なぜ、スクールカウンセラー(SC)を頼れる環境があっても、安心して学校に通い続けられる子供が増えないのか。元中央教育審議会副会長の梶田叡一氏(心理学・教育研究)は「SCという固有の資格の創設を検討する必要もある」と指摘する。

SCに特化した国家資格はないが、臨床心理士の資格を持っているケースが多い。一方で、梶田氏は「臨床心理士とSCとでは必要な技能が異なるということが理解されていない」と話す。

臨床心理士が医療機関などで担うカウンセリングでは、相談者の話を傾聴してアドバイスはしないのが一般的。一方で文部科学省はSCに対し、児童生徒にカウンセリングを行い、保護者に問題解決に向けた助言をするよう求めているが、話を聞くだけで助言しないSCが目立つという。

2年前の夏、当時中学1年だった長女(14)が体調不良を訴えて学校に行かなくなった愛知県の女性(53)は、SCと半年間、週1回の面談を続けた。だがSCは毎回、「本人が登校する気になるのを待つしかない」と繰り返すだけで、「何をして待てばいいのかも分からなかった」と振り返る。

焦った女性は、再登校を支援する民間の専門家を頼った。そこでは学習のつまずきが原因と判断され、長女は算数の復習や生活リズムの改善などに取り組み、3学期から学校に通えるようになった。今も明るい様子で登校しているという。

30年以上にわたり不登校の児童生徒の復帰を支援する明治学院大の小野昌彦教授(教育臨床心理学)は「SCの人数は増えたが、専門性の低い人も多い」と感じている。保護者がSCを頼り、面談を重ねても具体的な分析やアドバイスもなく、やがて子供が完全な不登校になる-。そんなケースが後を絶たないという。

こうした状況の背景には、SCの養成体制の脆弱さがある。SCに特化した養成は行われておらず、各自治体が採用後に開く研修会は講演会などが多いため、実践的な指導法を学ぶのは難しいのが現状だ。梶田氏は「SCになる前に大学などで履修する専門的なカリキュラムをつくることも必要ではないか」としている。(藤井沙織)

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スクールカウンセラー、先生以外の大人が学校で子どもの支援をするのは大事なことです。財務省はコストパフォーマンスをいうのでしょうが、スクールカウンセラーとは不登校予防人材では決してありません。親や友達、先生以外の人に聞いてもらえる環境が学校にあることが大事なのです。日本は先進国の中で教育予算の財政投資が最も少ない国です。そういう意味では、安上がりの学校経営をしてるのだから、不登校もいじめも虐待も減らなくて当たり前と言ってもいいかもしれません。

記事にある中学生の学力問題を民間で見つけて不登校が解決されたという事例は、学力問題を見落としたスクールカウンセラーの責任ではありません。学力問題は小学校時代からあったはずだし、それを見過ごしているのは担任をはじめ学校の責任です。彼女がLDかどうかは分かりませんが、どの学校にも特別支援教育コーディネーターを兼任ですが配置していますから、読み書きに躓きがあれば通級指導教室教員などチームで深刻なケースは扱っているというのが建前です。しかし、この機能がうまく働いている中学校は片手で数えられるほどしか知りません。

昔から、子どもの発達や学習障害のことを知らず、傾聴だけの臨床心理士がやってきてもそんなに効果は上がらないし、心理士が個人の秘密を守るということを機械的に優先するので、心理士から子どもの情報が支援チームに流れないという致命的な問題が言われ続けていました。一方で、心理士は学習内容や学級経営には首を突っ込まないでほしいという教員側の保守主義もあって、心理士を含めた支援チームが形成できないという課題を未だに抱えている学校は少なくありません。スクールカウンセラーはもっともっと必要です。学校の抱えている風通しの悪さを解決もせずに、スクールカウンセラーに不登校対策の責任を押し付けて人件費削減の理由にしないでほしいです。

新資格「子ども家庭福祉ソーシャルワーカー」案 専門家からは異論

新資格「子ども家庭福祉ソーシャルワーカー」案 専門家からは異論

2021年11月5日 【朝日新聞】

児童虐待による死亡事件が後を絶たないなか、子どもや家庭の支援に携わる人材の専門性を高めようと、厚生労働省は5日、新たな資格「子ども家庭福祉ソーシャルワーカー」の案を有識者らでつくる専門委員会に示した。ただ、国家資格の位置づけでないことなどから反対意見もあり、結論は先送りとなった。

政府は児童虐待への対応強化に向け、児童相談所で働く児童福祉司を2022年度までに2千人増やす計画だ。人数を増やすことと併せ、長年の課題になっているのが専門性の向上で、子どもや家庭福祉の分野で新しい資格をつくることが検討されてきた。

厚労省が示した案では、いずれも国家資格の「社会福祉士」か「精神保健福祉士」を持つ人が、児童虐待への対応や母子保健といった教育課程を終えれば、「子ども家庭福祉ソーシャルワーカー」に原則認定する。認定は民間団体が担う。当面の経過措置として、こうした分野で4年以上の実務経験がある人も、認定されるようにする。

この日の専門委は、新たな資格を国家資格にすることや、社会福祉士などの保有を条件としない独立型の資格とすることを求める委員もおり、紛糾。「国家資格ではないのに子どもに携わる専門職に必要な資格と法律上、本当に位置づけられるのか」という反対論の一方、今の国家資格へ上乗せする形は「採用する側の行政からは(何でもできる)オールマイティーの人材が期待されている」と賛成する声も上がった。資質向上には、短期間で異動する自治体の人事運用の見直しが必要とする意見もあった。

厚労省は来年の通常国会に関連する改正法案の提出をめざしており、年内にも結論をまとめたい考えだ。(久永隆一)

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児相で働く児童福祉司は「社会福祉士」か「精神保健福祉士」が任用されます。どちらも、「児童や家庭に対する支援と児童・家庭福祉制度(児童・家庭福祉論)」か、「現代の精神保健の課題と支援」でさらっと児童問題に触れるだけで、現代の児童問題を総合的に扱う知見を与えられているとは言えません。任用前の講習では「子ども虐待対応の基本」も1日講義を聞くくらいです。従って、厚労省が言うように専門性を持った職員が必要なのは言うまでもありません。争点になっている、国家資格か否かという問題は現状では大した問題ではないようにも感じます。それよりも、足しげく家庭訪問する職員を増やすことが、虐待の抑止には効果的だと思います。

児童問題は、家族に国家権力が介入して最悪の事態を予防する場合があります。親が子どもを養育するという親権を奪うわけですから、間違いがあってはなりませんが、この間の死亡事件を見ていると親権を奪うのに慎重になったというより、職員や上司がぐずぐずしていて素早く決断できなかったというケースばかりです。家庭内暴力があったなら過去の事でも警察に通報すればいいし、近隣住民が子どもの悲鳴を聞いたなら警察と一緒に自宅に踏み込むべきです。さらに、児童虐待のフットワークを悪くしているのは、都道府県管轄の児相と、市町行政の児童問題を扱う部署の連携がぎくしゃくしていることです。

市町行政の子ども家庭課等の虐待事案担当者は相談の窓口であり、児相に連絡する前捌きのようなことをしています。児相の職員ですら勤務5年で半数以上の職員が他部署に交代していきますが市町も同じようなものです。この職員同士で連携するのですから上手くいかない連携部門も当然出てきます。ケースで上手くいかない理由をお互いに擦り付け合う姿もあります。専門性の問題ではなくお互いの面子の問題だったりします。こうして考えてみると現場のリアル感と霞が関の会議には相当の隔たりを感じます。昨日もスクールカウンセラーが増えているのに不登校が減らない理由はカウンセラーの専門性の問題よりもそもそも学校内の連携ができない風通しの悪さではないかと書きましたが、こちらの専門性論議も同じように思います。

障害者の性被害の訴え届くか 「罪の新設」議論、法制審で本格化

障害者の性被害の訴え届くか 「罪の新設」議論、法制審で本格化

2021/11/8 【西日本新聞】

性犯罪を適切に処罰するため、刑法の規定を見直すかどうかの法制審議会(法相の諮問機関)の議論が本格的に始まった。立場の弱さや不十分な判断能力に付け込まれて性被害に遭う知的障害者らを想定した「脆弱(ぜいじゃく)性や地位・関係性を利用した罪の新設」も論点となる。抵抗したり、被害を訴えたりすることが難しい上、訴えても「証言に一貫性がなく信用できない」などとされ、泣き寝入りしてきた障害者の声は届くのか。(玉置采也加)

「嫌って言いたくても怖くて言えなかった」「我慢しちゃった」。福岡県内の知的障害のある20代女性は言葉少なに振り返る。

同県久留米市の障害者施設に通っていた女性は2017年、所長だった40代男性からわいせつな行為を受けたと訴える。元所長側は当時、取材に対して「お互い好きだった結果」などと主張。女性が住む自治体は18年、元所長の行為を障害者虐待防止法に基づき性的虐待と認定。久留米市も障害者総合支援法などに基づき施設を調査、指導した。

一方、県警久留米署は昨年1月、強制わいせつ容疑で元所長を福岡地検久留米支部に書類送検したが、不起訴処分に。地検支部は「起訴に足る証拠がなかった」と説明した。

女性は同10月、元所長と施設運営法人に慰謝料を求め、福岡地裁久留米支部に提訴。現在も係争中だ。

女性の母親は「娘はずっと苦しんでいる」と話す。4年たっても女性は「男の人は怖い」と顔を曇らせ、元所長に似た男性を見かけた日は涙が止まらないという。

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家族らによると、女性の知的能力は小学校中学年程度。警察に事情を聴かれた際、一貫した説明をすることが難しかったとみられる。

久留米市の障害者施設関係者は、知的障害者が苦手なこととして、状況判断▽意思の伝達▽記憶の定着-などを挙げる。自覚しないまま性被害に遭う例もあるとし、女性のケースについて「知的能力は10歳前後なのに、検察は実年齢で判断した」と疑問視する。

法務省によると、18年度に「嫌疑不十分」で不起訴になった性犯罪で、被害者に障害があった事案は60件。内訳は、精神障害26人▽知的障害25人▽発達障害7人▽身体障害2人。「供述に看過しがたい変遷あり」など、証言の信用性が疑われた。

長崎総合科学大の柴田守准教授(被害者学)は「現行制度は犯罪が成り立つ構成要件として供述や証言を重要視しており、障害のある被害者の特性や、強い立場にある加害者側との関係性に配慮できていない」と指摘する。

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性犯罪に関する法制審の部会は10月下旬、初会合を開催。「施設職員と障害者」「教師・指導者と子ども」のように、優越的な地位や関係を利用した性行為を処罰する規定の必要性などを話し合う。

今年5月に報告書をまとめた法務省の検討会では「障害者が生活を依拠している人物からの行為は犯罪としてよい」「障害者虐待防止法の中で検討すべきだ」など意見は分かれている。

性犯罪などの捜査に詳しい元検察官の江藤靖典弁護士(福岡)は(1)判断能力や意思表示能力が十分でない人の場合、同意の有無や犯罪の成否の判断は難しい(2)障害者との性行為を一律に処罰すれば、障害者の性的自己決定権の制限につながりかねない-などの懸念を示す。その上で「法制審で多角的に知恵を出し合い、被害者が理不尽に泣き寝入りせずに済む法制度を実現してほしい」と求める。

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施設職員や学校教員がサービス利用者である子どもや女性に手を出すこと自身が社会モラルを逸しており、これに対する法制化に二の足を踏む方が常軌を逸しています。まずは支援したり指導したりする立場にある者との性的関係を禁止すれば問題は大きく解決の道に進むと思われます。もちろん、市民社会の中でこうした職権関係のない障害者の性被害は明らかになっておらず、メディアに報じられる事件は氷山の一角です。社会の中で障害者への性犯罪をあぶり出して断罪するのは、元検事が言うように難しいのかもしれませんが、まずは第一歩を踏み出すべきです。

職員や教員の場合は懲役刑以上の罪にするべきです。性犯罪が発覚しただけで彼らは社会的地位を失うのだから罰金刑までで良いという声もあります。しかし、現行の制度では未だに性犯罪をした職員や教員が年月を経てほとぼりが冷めれば再任用される可能性があるままです。法制化を押しとどめたのは、罪を償えば職業選択の自由があり人権の平等性を担保するという硬直化した憲法観です。性犯罪者には二度と子どもや女性と関わる職権を与えてはならないと思います。罪を反省し自分を客観視できたのなら、また同じ職に戻ろうなどとは普通は考えないものです。

起訴に足る証拠が当事者証言で曖昧な場合が多いというなら、裁判には代理者を立てることを認めればよいと思います。性犯罪や虐待事案専門の法曹関係者を代理者にすれば良いのではないでしょうか。被告人弁護士の追及に知的障害者が怯んで前言を変えてしまうのはむしろ当たり前のことです。法廷のような周囲の視線を全方位から感じる場所で堂々と被告の性犯罪を証言できるほうが不自然です。知的障害者の他の被害においても公判証言は困難と思われる場合が多いですが、特に性犯罪においては格別の配慮が新しい法律の中に組み込まれるべきだと思います。

小学校でいじめについて考える集会 新潟見附

小学校でいじめについて考える集会 新潟見附

11月08日【NHK】

いじめのない学校づくりにつなげようと、8日、見附市の小学校でいじめについて考える集会が開かれました。

見附市の今町小学校ではすべての児童が参加していじめについて考える集会を毎年開いていて、8日は全校児童およそ400人が参加しました。
集会では6年生が司会を務め、学校のいじめ防止の一環で、友達のよいところを書いたカードを校舎の階段の壁に貼る取り組みの意義について説明したほか、友達が嫌なことをされているのを見たときにはどうしたらいいかを児童らがその場で話し合っていました。

さらに、県がすすめる「いじめ見逃しゼロ県民運動」のサポーターである見附市出身のタレント、今井美穂さんが、自分の個性を大切にして自信を持つことの大切さなどを話していました。

文部科学省によりますと、昨年度、県内で認知されたいじめの件数は1万7千件あまりで、新型コロナウイルスにより学校が休みとなったりした結果、前の年度からおよそ3000件減りましたが、1000人あたりの認知件数は77.1件と、全国の都道府県で4番目に多くなっています。

6年生の女子児童は「集会ではどんなことがあってもいじめはダメだということを伝えたかったです。人を褒めてあげることでいじめはなくなると思います」と話していました。

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こういうストレートにいじめの撲滅を掲げた児童集会をしている様子をあまり聞きません。確かに学級など小さな単位で、いじめ事象のたびにホームルームなどで調査と反省を促すようなものは聞きますが、どうすればいじめがなくせるのかを低学年から高学年まで一堂に会して児童会で行うスタイルはベタ過ぎてやらないのかもしれません。

もちろん児童会の指導は教師の手が入っていますが、教員が言うから従うのではなく、学校ムーブメントとしてやろうという意気込みが感じられてかえって清々しいです。中野の小学校でのICTいじめの自殺も、旭川の中学のいじめが原因での凍死自死も、大人ばかりが右往左往して児童生徒の動きがまるで見えないのが気になります。

いじめは社会の問題であることを示すには、問題が起こってからではなく、子どもの知恵を集める前向きなムーブメントは有効だと思います。前向きな議論のある大集会は、マイナスの同調性を蹴散らすパワーを持っています。もちろん、児童や生徒のいじめ撲滅運動だけで事が解決するわけではないですが、事件が起こるたびに大人だけで立ち回って、当事者以外は関係がないのだという風潮を変えていく動きが大事だと思います。

 

元看護師は「更生の道が相当」 無期懲役判決で横浜地裁

元看護師は「更生の道が相当」 無期懲役判決で横浜地裁

2021/11/09 【産経新聞】

横浜市の旧大口病院(現・横浜はじめ病院、休診中)で平成28年、入院患者3人の点滴に消毒液を混入し中毒死させたとして殺人罪などに問われ、9日の判決公判で無期懲役(求刑死刑)を言い渡された元看護師、久保木愛弓(あゆみ)被告(34)。横浜地裁の家令和典裁判長は量刑理由について「公判で自己に不利益な事情を含め素直に供述し、反社会的な傾向も認められない」とし、「死刑を科することがやむを得ないとまでは言えず、生涯をかけて更生の道を歩ませるのが相当だ」と述べた。

家令裁判長は久保木被告の責任能力について「犯行時は(発達障害の一種の)自閉スペクトラム症の特性があり、うつ状態にあった」と認定した一方、弁護側が主張した統合失調症の影響は否定。「『勤務時間中に自身が対応を迫られる事態を起こしたくない』という犯行動機は了解可能で、違法な行為であることを認識していた」として、完全責任能力があったと認めた。

被害者3人のうち1人が終末期患者ではなかったことに触れ「苦痛の中で生命が奪われ、被害結果は極めて重大」と非難。「看護師としての知見と立場を利用した犯行で計画性も認められ、動機も身勝手極まりない」と断じた。

一方、犯行動機の形成過程については、情状酌量の余地を認めた。被告は「終末期医療を中心とする大口病院であれば自分でも務まる」と考えて勤務を開始したが、患者の家族から怒鳴られて強い恐怖を感じ「視野狭窄(きょうさく)的心境に陥った」と認定。「このような動機形成過程には、被告の努力ではいかんともしがたい事情が色濃く影響している」と指摘した。

また、公判の経過とともに被告が贖罪(しょくざい)の意思を深めていったことも重視。「被告人質問では償いの仕方が分からないと述べていたが、最終陳述では死んで償いたいと述べるに至った」と認め「他者に対する攻撃的傾向もなく、更生可能性も認められる」と結論づけた。

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判決は、『勤務時間中に自身が対応を迫られる事態を起こしたくない』と、家族と対応するのを避けるために薬殺したと殺人の動機をASDの特性から説明しました。そして、被告を「公判で自己に不利益な事情を含め素直に供述し、反社会的な傾向も認めない」し更生可能性があるとして無期懲役を言い渡しました。ASDの人たちが陥りやすいロジックを公判は分かりやすく説明したと思います。

福祉・医療・教育の対人サービスで、対人関係に困難のある人が働くことになると、強烈なストレスを感じることになります。相手の立場に立って言動を考える事がとても難しいからです。その結果、対象者からも同僚からも上司からも叱責や嘲笑の対象になりやすいです。そして、誰に相談することもできず真面目さゆえに限界まで働き続け、やがて精神を病んでいきます。

もっと早く、幼少期からASDが見つけられ、支援を受けて成功した経験を持つことができれば、きっと違う進路を見つけ、真面目さと几帳面さが活かされる職種につけたはずです。医療や教育職は試験のハードルは高いのですが、記憶勝負の所があり対人関係の躓きを見つけるようなシステムを現段階では持っていません。椅子に座った採用者との面接で対人関係障害を見抜くことは不可能に近いです。

しかし、向き不向きという職業適性が客観的には判断ができたとしても決定するのは本人です。だからこそ、小さな時期から自己フィードバックのトレーニングを受け、支援を享受する様々な体験が必要です。自分の適性と働く将来の姿を考えていくキャリア教育は全ての子どもに必要ですが、中でもASDの子どもたちには最も必要な教育だと言えます。ASDの特性に関わる公判の過程を知れば知るほど、発達障害のある人の支援について幼少期からの途切れない支援の重要性を感じます。