すてっぷ・じゃんぷ日記

2021年10月の記事一覧

喋らないで作業します。なんで?

Nさんは視覚障害がありますが作業ができます。点字も使ってマッチング作業や組み立て作業の学習をしています。ただ、Nさんはおしゃべりが大好きなので、作業中もついつい職員に話しかけてしまいます。職員もついつい応えてしまって、その結果作業の精度が落ちてしまう事が少なくありません。職員は、Nさんには「喋らないで作業をします」と伝えているので、覚えてないわけはないと言います。でも、話してしまうのですから、理由は何だろうと言う話になりました。

そもそも、Nさんは、何故作業中にお喋りしてはいけないか理解しているだろうかという話になりました。Nさんが間違わないで作業をするという理解をしているかどうかは聞いてみないとわからないという結論になりました。晴眼者の場合は見て自己フィードバックできますが、Nさんの場合は職員が間違いを指摘するしかありません。しかも「間違ってたよ」では何がどう間違っているのかわからないので、手で触らせて間違いの確認をして、自分で修正するという過程が必要です。これも広い意味では4ステップエラー修正と言えるかもしれません。

つまり、間違っていることを触覚を通して伝え、どうしてこうなったかに気付かせることで、初めて作業には注意や集中が必要で、おしゃべりすると間違いやすいと自覚ができるのだと思います。そして、間違わずに完成したら一緒に大喜びして褒めてあげることで修正指導は初めて成り立ちます。大人は声を掛けたら注意ができたと簡単に思っていますが、見えないとか、聞こえないとか、聞こえても理解できないとか、個々の障害を配慮した上での修正でなければ、修正にはならないことをNさんが教えてくれているのだと思います。

 

2の声でお願いします

Mさんは、最近送迎車から降りて事業所に入る時「コンニチワー!」と絶叫します。2学期になってからですが、うるさくて聴覚過敏の子の攻撃ターゲットにならないかヒヤヒヤしています。すてっぷでの対応はとりあえず強化はしないという消極的な意味でのスルー作戦です。しかし、他の場所で大声に反応して強化してしまうこともあるし、反応がないとさらに行動が激しくなるバースト行動を誘発する可能性もあります。案の定、日に日に絶叫挨拶は大きくなっていきました。

そこで、事業所の玄関に入る前に職員が予告をすることにしました。「Mさん、こんにちわは2の声でお願いします」と声のレベルメーターでの提示をしました。職員の声も2の声よりもさらに落としてヒソヒソ声でお願いしてみました。すると、玄関に入るとMさんは職員と同じように小さな声で「コンニチワ」と言ったのです。つまり、Mさんは玄関に入ったら「コンニチワー!」と絶叫するのが、お決まりの行動になっていただけだったのです。何か特別な思いがあって絶叫していたわけではなかったのです。

私たちは、不適切な行動には私たちに何か訴えるものがあるという対人関係上の理由を想定してしまいます。しかし、「2の声で」とお願いすれば従ってもらえるくらいの行動だったということです。「こんにちわ」と玄関で言うのは間違った行動ではありません。ですから、私たちは、この行動を止める理由はありません。ただ、適切な音量というものがMさんにはわからないので、皆が反応する大音量になったのではないかと推測しています。

つまり、挨拶したら反応が返ってきて1セットだという認識です。このセットを完成させるために大声を出せば何らかの反応が大人からあったと言うことかもしれません。ASDの子どもたちの世界は、よく考えてみると、なるほどなぁと頷かされるとてもシンプルな理由があります。明日のMさんの挨拶対応は2の声作戦で行きましょう、適切な音量なら視線を合わせて優しくコンニチワを返しましょうと、全員で意思統一しようと思います。

 

 

 

九九の季節がやってきた!Y先生のじゃんぷ通信8

かけ算九九の季節がやってきた!Y先生のじゃんぷ通信8

小学校に上がった子どもたちが、読み書きの力と合わせて困っているのがかけ算九九の学習です。じゃんぷに来ている子ども達も色々な困り方を見せます。

学校では九九を覚えるのに九九カードを使って唱えて覚えます。上がり算下がり算を毎日練習します。ところが読むことに苦手があると九九をスラスラ言えません。繰り返しやれば覚えるのではと毎日取り組みますが、やればやるほどいやになります。そんな時に役立つ、九九の歌を聞いて覚える方法が浸透していて、「それで私も覚えた」という保護者もたくさんおられます。子どもたちの中には耳で聞いて覚える方が得意な場合は役立ちます。

逆にことばに注目できない子は「4(し)」と「7(しち)」の区別が難しい、段によって「が」が入る・入らないの意味が分からない等で悩んでしまいます。九九の学習が進むと、逆に視覚的な力を活かして九九表を横に置いておいて、見て答えを見つける方が有効な場合があります。学校でも通級指導教室や特別支援学級では取り入れることも増えてきています。しかし通常の意学級では、その子だけ特別扱いになると嫌がったりします。

「この表を欲しい人は誰でも貸すので言ってください。」と説明し、覚えるまでは使ってもいいという雰囲気が必要になります。又九九表がどこに何が書いてあるのか注目しにくいため、使いたがらないケースもあります。このようにその子その子に合わせたつまずき方を理解し、その子の良さを活かして方法を探ることが大切です。

読み書きや計算に悩んでいる子にとって、昔からやっているからとか、親の世代もこの方法でやってきたからというような一つの方法だけに頼るのではなく、子どもたちに無理なく教えられる方法を、多様な視点で探っていくことが求められます。(じゃんぷでは取り組んでいます)

 

友達の声掛けをスルーします

K君たちがヘルプを出してきました。「先生!みんなで一緒に遊べって言われたし、L君には『みんな』といわないで『L君』ドッジボールしよって呼びかけたのに全然反応してくれへんしもうわけわからん」と言うのです。以前(多様性社会と自発性 : 08/20 )でも書きましたが、支援学校生と小学生を分けて遊ぶのでは、せっかく同じ放デイに来ている意味がないということから、できるだけ遊びの内容が共有できるなら一緒に遊ぶことにしています。その中で、小学生たちが支援学校生にどう接すればいいのかも学ぶようになったというのは前回書きました。

L君に聞いてみました。「K君がドッジやろうって声掛けてくれたの聞いてた?」「聞いてた」「ルールの説明は聞いてた?」「聞いてたよ」「ドッジが嫌だったの?」「違うよ」「だったらなんで一緒に遊ぼうとしなかったの?」「う~ん。わからん」とのことでした。実はL君はK君が声をかけた時ファンタジー遊び(好きなシーンのイメージ再現遊び)をしていたのは職員は知っていたので、聞いていなかったんだろうと思っていたのですが、聞いていたし、内容も分かっていたと言うのです。これには職員も困りました。知っていたけどなんとなくスルーしてたわけです。

友達が声をかけたら何故反応しなければならないの?という根本的なところから出発しないとこの問題は解決しません。友達が「遊ぼう」と声をかけてくれるのは親愛の表現で、これをスルーすることは「君は嫌いだ」と言うサインになるから、必ず反応して「ありがとう、でも今はやりたくない」と反応することをソーシャルナラティブで教えるといいかなと職員間で話をしています。

そして、小学生たちには反応しないのは、別に君らの事を無視しているのではなく、何かやりたいことが他にある事が多いので、「あとでおいでね」と声をかけて今日みたいに先生に相談してくれたらいいと説明しようと話しました。彼らを一緒に遊ばさないとこんな課題は見つからなかったのでやっぱり一緒に遊ばせてよかったと思います。何よりうれしいのは、小学生たちが怒らないでL君を見捨てないで、どうすればいいか職員に聞くようになったことです。皆で遊ぶには知恵と工夫がいると子どもたちに言い続けてきた成果です。継続は力です。

 

 

エラー修正

J君は作業を終了したら、ご褒美に好きなものを飲んでいいことになっています。ただ、作業終了したことが職員に分かるように「作業終了したよ」報告を絵カードで行ってから、職員が作業内容を点検してOKがでたら、作業終了となるのですが、J君は作業が終わると「ジュースください」カードを持ってきます。ワークシステムも作って「ジュースください」の前に「終わりました」カードがあるのに何故かそこを飛ばして「ジュースください」カードを持ってくるのだそうです。

何回修正しても覚えないというので、どんな修正をしていいるのか聞いてみました。間違えると「やりなおしましょう」とワークシステムに身体プロンプトで向かわせ「終わりました」を持ってこさせて、「ハイOK」ということで次の「ジュースください」絵カードに進ませると言うのです。

職員にもエラー修正が必要なことがわかりました。やり直しは身体プロンプトするけど、身体プロンプトをフェードアウトしてリピートしないまま次に進ませていたのです。この修正の仕方だと、本人は「ジュースくださいカード」を自分で持って行く→やり直しと言われて身体プロンプトで「終わりました」カードを持たされ職員に渡す→自分で「ジュースください」カードを渡す→ジュースが飲める、と言う順序で理解したはずです。

つまり、身体プロンプトされるところが、新たに彼の「ジュースください」のルーティンに入っただけなので、何回修正しても、職員のいう「間違」いが生じているのだと思います。そして、修正介入を受けた後は結果的に何度もジュースが出てくるのですから、とても強力に強化されていると思います。この場合は、身体プロンプトで修正を行ったら、そのあとすぐに一人で作業の終わった場面から始めさせて正しい順番で行動するリピート行動が必要だと思います。

このエラー修正は、順番を修正するためにできるところまで戻ってプロンプトしていくのだから、バックステップエラー修正かなとも思うのですが、リピートをするあたりは4ステップエラー修正にも思えるのですがどっちでしょうか?どなたか教えてください。とりあえず職員の修正は選択の間違いですから4ステップエラー修正です。