2021年8月の記事一覧
リモート職員会議
NPOホップすてーしょんは、二つの事業所があります。主に子どもの遊びや生活から療育アプローチをする「育ちの広場 すてっぷ」と、発達障害のある就学前の子どもたちと、学習障害のある小中学生の学習から療育アプローチする「学びの広場 じゃんぷ」があります。この二つの事業所には4人づつの正規職員がいて、月に一度リモートで職員会議を行っています。
この職員会議では8人の職員が実践の紹介や教具の交流をして、働く場所は違うけど、発達障害の支援コンセプト、志は同じであることを実践交流を通じて共有しようとしています。二つの事業所の療育の形態は違っても目指していることは同じだと言うのは簡単ですが、お互いの生の実践を知らなければ気持ちは離れていくものです。
リモート会議の資料にペーパーは全く使いません。基本はパワーポイントによる写真や動画のプレゼンテーションで実践を交流します。プレゼン時間は一人5分と制限していますが、いつもみんなオーバーランして話してしまいます。今日は読み書き障害のある子どもの音読法の動画紹介、作文が苦手な子どもにマインドマップを使う実践、就学前療育に感覚統合の取り入れ方、ローマ字指導に効果的なICTアプリの紹介、食事や作業のワークシステム支援と、これだけで論文が数本書けそうな中身です。
これまで、会議と言えば長々と話すことがスタンダードとされてきましたが短時間で動画等を見せてもらったほうがはるかにわかりやすいです。百聞は一見にしかずは子どもに限ったことではないです。できるだけ「見せる交流」を進めていこうと思います。
スナックタイム改めコミュニケーションタイム
Hちゃんのスナックタイムを動画で撮り検討会をしました。Hちゃんには言葉だけでなく機能的なコミュニケーションスキルが確立していないので周囲の大人がHちゃんの気持ちを読み取って日常生活を送ることになります。最近は職員が差し出した二つゼリーの一つを指で触れて選んでいるような仕草が見られるという報告がありました。
今回の動画では選ぶ場面は撮れず拒否の場面でした。職員が喉が渇いたただろうと慮ってスプーンでお茶を口に運ぶと、大きく口をひらいて受け入れるのですが、そのあとすぐに口からお茶を出しています。次に勧めてもコップをはねのけて拒否しているようです。では、何故口を開いたのか議論になりました。
この前のシーンで市販のボトルからコップに注いでいる様子をHちゃんは見ているので、好きなジュースと勘違いしたから口を開けたとする意見と、Hちゃんはスプーンを口元に近づけると反射的に開けてしまう癖があるという意見です。いつも職員から嫌そうに見えても勧めれば食べますというふうに誤解されているのはこの癖のせいだと言うのです。
一旦食べたものを口から出したりしなくても、いらないという意思が見えたならやめるべきだと話し合いました。何より、おやつの時間は「おやつを食べなくてはならない時間」ではないということです。すてっぷでは食べるのがとても早い子も半数以上いるので、どうしても早い子どもに日課の速度が引きずられがちです。
けれどもHちゃん達にはこの速度は早すぎてついていけないから、わざわざマンツーマンにしてゆったり表情を見ながら、食の時間を過ごせるようにしているのです。他の子どもに合わせて慌てる必要は全くないのです。そもそもスナックタイムと言うネーミングがいけないという事になり、おやつを用いたコミュニケーションタイムとして考えようという事になりました。
いるい・いらない、これほしい・あれがいや、ちょっと一服、また欲しくなった、と様々な表情や動作を読み取ってやり取りをするコミュニケーションタイムとして考えれば、もう少し本人の気持ちが尊重される時間になるのではないかと思います。おやつは残したって全くかまわないですが、気持ちは全てかなえてあげて欲しいのです。きっとそれが、適切な機能的コミュニケーションにつながっていくはずです。
依存性とマンツーマン体制
Gさんに職員が近づき過ぎたためか、Gさんが職員の手をずっと握りしめてしまい離れる事ができずに困っていました。不安傾向の強い人の中には、必要以上に介助したり近づきすぎると、自分をすべてその人に預けて離れなくなってしまう事があります。
職員には、本人の不安は伝わりますから無下に手を振りほどくわけにもいかず、子どもが職員の手を持って自分の手の代わりをさせるという「逆二人羽織状態」が続きます。こんな場合は、支援者が交代すれば比較的スムースに依存状態がリセットできます。依存されていた職員は、「お仕事なので行くね」と、本人の視界から外れる仕事をしたり外出したりするのが効果的です。
そして、次の支援者は机をはさむなどして距離を保ちながら作業や課題を提示していきます。また、障害の重い方が多い事業所や支援学校現場では、マンツーマンの体制を組みがちです。これが依存性の高い人たちの自立行動の障害になっていることが少なくないことを知っておくことも大事です。
支援体制を組む人は、できるだけマンツーマンではなく利用者と職員の体制を、依存度の高い人を含めた複数の利用者を複数の職員で対応するような支援設定が必要です。職員の担当を利用者1名だけにしておくと、その人だけ支援する動きになりやすく、せっかく集団指導をしているのにマンツーマンの二人が孤立している事が少なくないのです。該当職員が支援に行き詰った時は、2番手3番手の職員がフォローしていく支援体制が、子どもの自立を促す土台となります。
下手なのに好き??
小学生でバレーボールをしました。最初は男子だけでレシーブの練習をしていました。それをEさんが見ていて、「あたし、それ知ってる。小6で少し教えてもらった」と男子の中に入って夢中で取組み始めました。知っているとは言っても、ほとんど経験がないようでレシーブしたボールはあっちこっちへ飛んでいきます。それでもEさんは楽しそうに遊んでいます。
それを見ていたF君が「へたくそなのになんで面白いかな??」と職員に呟きました。「なんでやと思う?」と職員。「わからん!下手やったら俺は絶対おもろない」と言い残して輪の中に戻っていきました。F君は別にEさんが輪の中に入って迷惑だと言っているわけではないのです。下手なのに何故楽しそうにみんなと遊べるかが不思議で仕方がなかったのです。
職員がこんな時はどう応えたらいいのだろうと職員会議で話しました。あれこれ説明せずに、「良いことに気が付いたね」と言って、自分と違う人に関心を持ち、人はみな違うという気づきを褒めてあげればいいと話しました。ここで、Eさんの下手でも皆と遊ぶところが偉いとか、勝つことだけがゲームの楽しさではない、と野暮なことを話しては、高学年にはNGだと話しました。
勝ち負けばかりにこだわっていたF君が、ニコニコして下手バレーに取り組むEさんに関心を持って、「何が楽しいねん?」と気づいたことを職員みんなで共有し見守っていけばいいと思います。子どもの遊びって子どもの新しい気づきが発見できるので、いつも新鮮な気持ちになります。
好き好き交渉
1年のD君の絵カード理解が進んできました。タブレットの要求。好きな種類のジュースの要求。外出の要求。と区別ができます。では、そろそろ「交渉初級編」に入る必要があります。
交渉を教えましょうと言うと、嫌なことの次に好きなことを強化子にして「~したら~」を示し子どもとトラブっている現場あるあるをよく見ます。順番に絵カードを並べるだけで交渉を理解する子もいるのですが、全く分からない子もいるのです。この場合は、最初に教える交渉の段階は、君の要求したものは後から必ず来るよという事がまずわからないと成立しません。
せっかく好きなジュースを頼んだのに、嫌いな野菜を食べてみませんかと示されたら、いくら好きなジュースが後に示されても応じる事ができません。というか、後にジュースが来ることはこの段階では理解していませんから、野菜を食べるくらいならと拒否するしかありません。これでは交渉の初級指導は失敗です。
交渉の初期は、まずは好きなものとのトレードオフです。好きなジュースとまぁ好きなジュースとか、好きなタブレットゲームとまぁ好きなタブレットYoutubeとか、まぁ、それならいいけどと本人が受け入れられるものを示します。そのあとで本人のものが来たら、そのうちに要求したものが後に示されているカード表示の意味、交渉の意味を理解していきます。
交渉の絵カード指示の意味がわかれば、徐々に本来の交渉に入っていきます。絵カード要求は分かるのに交渉ができない場合の躓きは、ほとんど「嫌い好き」提示で生じています。まずは「好き好き」提示から交渉に入っていけばうまくいくはずです。