すてっぷ・じゃんぷ日記

今日の活動

ちゃぶ台返し

Xちゃんが、お弁当をひっくり返したそうです。お弁当はいつも完食なので職員は再び促したそうですが、今度は机をひっくり返そうと机の下に手を入れたので、手を合わせてごちそうさまをしたそうです。でも、それだと、お弁当をひっくり返せばお弁当が終了できると教えたことになりますねと質問すると、手を合わせることで、終わりを教えたことになると思ったそうです。

手を合わせるのは、確かに食事終了の合図にはなりますが、それはいつもしていることで、「お弁当ひっくり返し」の「やりなおし」とは本人は認識しません。再度お弁当をひっくり返した理由を尋ねると、お弁当にあったひじきは好きだからそれが原因とは思わないとか、お隣の子のお弁当がおいしそうでジェラシーを感じてひっくり返したとか、いろいろな大人の推測が話されました。

「いえいえ。聞きたいのは直接の理由です」と話を戻してもらいました。おそらく、本人は身近な人ならわかる「いらない」サイン(手を合わせる)を出していたかもしれないのですが、担当者が見落としたか親切心かでさらに促したのだと思います。それを拒否する術を持たないXちゃんはお弁当をひっくり返して終わりにしたのだということです。

今回のやり直しに必要な手続きは、「いらない」を教える事です。誰にでもわかるように「NO」とか「×」とか書いたカードを準備してそれを渡せたら、「わかったよ」ごちそうさましようねで「手を合わせる」のです。いらない時はお弁当箱をひっくり返さなくても良いことを教えます。そして、Xちゃんの課題がわかったので、今後は部分的に嫌なものがあるときはそれを食器から出して「いらない」カードを示すなどして、全部ひっくり返さなくても良いことを教えていきます。

まず支援のスタートは、Xちゃんは好き嫌いはほとんどないのだから、完食の支援は必要ないことを職員全員で確認をします。そして、Xちゃんにはコミュニケーション障害があって、うまく表現ができないことを念頭に置いて、どうしたら食べるかよりも、どうしたらいらないを穏やかに表現できるかを考えて、これを集中的に支援することが療育目標の優先課題であることを確認しましょうと話し合いました。

 

何気ない子どもの声から知ること  Y先生のじゃんぷ通信6

『折り紙をしたい』という何気ない声から知ること  Y先生のじゃんぷ通信6

放デイ「じゃんぷ」では,個別の学習指導の後に,自分のしたいことを取り組む「自立学習」の時間を設けています。
小学3年生の男の子が,毎回『折り紙をしたい』と希望を出してきます。

学校の特別支援教育コーディネーターをしている時に,よく保育所や幼稚園に教育相談として行く時があり,折り紙の時間をよく見ていました。いろんなことを取り入れて先生たちは折り紙を取り組みます。「折り目は指先でギュッと折れているかな」「折る時に端と端を合わせられるかな」「折り目を3回ぐらい繰り返してできるかな」「見本をちゃんと見れるかな」「先生の指示に合わせられるかな」等いろいろな力を子ども達も見せてくれます。

小学生になると,また違った視点で折り紙を考えています。
折り紙の本に写真があるから,それを見てできるだろうと思ってしまいがちですが,見るだけではうまく折れないことが多いです。そこで順番に注目させたり,わかりやすい言葉を添えて折るようにヒントを出したりします。

目で見るという作業は「同時処理」思考になります。折り紙を順番に折る時には「継次処理」思考が必要になります。子どもによって(大人もそうですが)このどちらが得意か違ってきます。この小学校3年生の男の子は,物事を順番に処理していく(継次処理の)力が伸びて行くと学習にも取り組みやすくなります。男の子が「折り紙をしたい」といった時に,どんなヒントを用意し,「できた」自信をもつことができるようにするかにかかっているように思います。

「だましぶね」の途中までを順番に折るように伝えて,何枚も折ってもらいました。最後の仕上げは大人で仕上げて,友達にプレゼントする作戦です。途中までは継次処理で分かりやすいので一人でも折れます。慣れてきたら難しい最後の部分を折っていきます。友達に使い方の面白さを伝授するのも継次処理の力と言えます。この力を支える取組にしたいと考えています。“たかが折り紙 されど折り紙”というわけです。

夏休みの宿題にマインドマップを Y先生のじゃんぷ通信5

夏休みの宿題にマインドマップを Y先生のじゃんぷ通信5

夏休みも後半に入ってきました。
放課後デイに通ってくる子ども達(中学生も)の悩みのタネになるのが「読書感想文」や「新聞づくり」です。宿題の最後に残ってきます。発達障害をもつ子ども達にとっては最も苦手な内容になります。それは読書感想文一つとっても、それを書く時には「読む」「内容を知る」「何を書くか選択する」「文にまとめる」「書く」等の作業を頭の中ではしないといけません。これをうまく整理したり、順序だてたりすることがうまくいかないからです。それができたとしても、最後のところで「思い出して」書く、手指のぎこちなさに苦労しながら書くことが大きな壁になります。

「じゃんぷ」ではマインドマップという方法を使って何人か読書感想文を書いたり、新聞づくりの構想を考えたり、夏休みの思い出の作文を書いたりしています。マインドマップというのは頭の中で行っている思考プロセスを「見える化」して、思考の整理や今からしようとしていることを整理するのに役立つ方法です。一緒にホワイトボードに思いついたことを「話すだけ」、順番に話したことを「図にするだけ」、整理された内容を「書くだけ」と作業を一つにしぼって実行します。

そうすると、「こっちのことを先に書きたい」とか「ちょっと言い方(表現)を変えて書いといた」等自分なりの工夫やアイデアが浮かんできます。

「読むのがイヤ」「書くのがイヤ」「なんて書いたらいいか分からないからイヤ」と思いがちな宿題も、実は頭の中の思考を整理することの悩みだったといえます。

座り込む子

W君が公園に外出した時,建造物の隙間からお気に入りの幟旗が向こうに見えたらしく,排水路を行こうとしたので職員が止めると,何で止めるねん俺はあそこに行きたいねんとばかりに,手を引く職員に抵抗して道端に座り込んでしまったといいます。それでどうしたのと職員に聞くと,てこでも動きそうにないので車を出して公園に移動したということでした。

言葉のないW君に私たちはどうすればよかったのでしょう。小さな子どもでも要求が叶わないと道端に寝転んで金切り声を上げて抵抗している姿をよく見ます。W君は小柄ですが15歳,中3です。支援者の実力行使ではなく,なんとかしてこの行動を変容できないものか会議で話し合いましたが,良いアイデアが浮かばないと言います。

彼が座り込むのはこれまでの経験上,座り込めば何度か要求が叶ったのかも知れません。これは間欠強化(部分強化)の法則と言って,ご褒美がいつももらえるよりも、もらえるかどうかわからない状態にしたほうが、「ご褒美をもらおうとする行動が、長続きしやすい」ことをあらわす法則です。ギャンブルにはまり込むのもこの法則なのでギャンブル法則とも言います。

でも,ギャンブルにはまっている人に強制力で禁止しても,それで良い方向には向かわないのは常識です。強制力がない時や少ない時に一気に実現するなどの荒業に出てくるのです。今はいいかもしれないけど,その先を見て支援しようと言っているのはこのためです。また,支援者による対象者への強制行動は支援者自身を強化してしまいます。つまり,対象者が従わなければどんどん強い強制力を使うと言うバースト現象を生じさせる可能性があるのです。

今回は,W君についての解決アイデアはあえて示しませんでした。無理だと諦めるのは簡単ですが,工夫をすることは言葉を持たない障害のある人たちと共生していこうと言う人権へのリスペクト行動だと考えています。あきらめないで工夫していきたいと思います。

奇声を減らす支援

奇声も様々ありますが,一つは自己刺激で「ウーウー」と唸るような低い声が長く続くもの,もう一つは周囲の人がびっくりするような大声で「キャー」というような奇声です。唸るような奇声も体が大きくなってくると周囲の人にはかなり耳障りになります。ASDの人の場合,相手が驚いていたり不快だと感じているの事が理解しにくいので,やめてと怒ってみても通じないことが多いです。

でも,最初の頃はコミュニケーションがうまくできなくて奇声を上げて注意喚起して,大人の注目を集める方法として機能していたかもしれません。この場合に有効なのは言葉以外のPECSなどの代替コミュニケーションです。奇声を上げなくても伝わるという事を気長に取り組んでいく中でだんだん奇声がなくなったという経験談は良く聞きます。

ただ,自己刺激の場合の唸り声は難しいです。よく観察してみると暇なときに意識を覚醒するために声を響かせている様子が少なくありません。もしそうであるなら,他の自己刺激グッズ,例えばスライムなどふにゃふにゃ・ふわふわしたものを触るとか・噛み噛みグッズで口唇感覚や顎感覚に働きかけ,他の感覚刺激で代替できないか考えます。

映像やゲームなど興味のあるものを増やすことも意識を覚醒しますから有効かもしれません。よく,声を出すのは「~さんにも言いたいことがあるのだから聞いてあげましょう」というような話をする人もいますが,毎日過ごす家族にとっては,近所迷惑もあり家族のストレスの原因になりつらい場合があるのですから,積極的に代替コミュニケーションや代替感覚のアイデアを一緒に考えることが必要だと思います。

カームダウンエリアは世界の常識

V君が顔を真っ赤にしてプンプン怒って職員に訴えてきました。パソコンのUSBマウスが反応しないと言います。「そうか,使えないマウスもあるから全部試してみてね」と職員が言うと,余計に大きな声で「全部試した!」と叫びます。仕方がないので,V君のパソコンをみると,そもそもUSBのプラグをパソコンのLANジャックに突っ込んでいました。『そら動かんわ・・・』と職員。

「V君。ちょっと頭冷やしてきた方がいいね」と職員は今説明しても理解できないだろうからと,カームダウンを勧めました。「わかった」とその場から離れました。少しして落ち着いた様子でV君が帰ってきたので「さっきの自分のこと振り返ることできるかな」と聞くと,「マウスが動かへんから,マイクラできないと興奮してパニクって,他のマウスを試すこともジャックの位置が違う事も調べんかったけど,どうしようもないから嘘ついた」と言います。

「よく自分の事が振り返れてすごいなぁ。V君良くわかっているんだね。でも学校でもこんなことあるよね。どうしてるの?」と職員が聞くと,「俺,パニクりそうになったら,教室から出て頭冷やそうとするねん」「おお,すばらしやん」「でもな,先生がどこ行くねんって止められるから,余計にごちゃごちゃになるねん」とのことでした。

「そら,先生に事情を説明しなあかんわな。『頭冷やすからどこどこに行くけどいいですか』って言わなあかんわな」と話しながら職員は,『今時,カームダウン支援を知らない先生がいるのだろうか』と思ったそうです。カームダウンすれば,大人が何も示唆しなくてもこんなにクリアに振り返りができるのですから,カームダウンエリアを用意してあげて欲しいものです。東京五輪のような大それた部屋でなくていいのです。廊下の物陰でも教室の片隅でも人の視線を感じない工夫がしてあるだけでいいのです。よろしくお願いします。

東京五輪・パラリンピックピクトグラム(絵文字)の「カームダウン・クールダウン」

オリンピック興味なし

小学生らに聞いてみました。「オリンピックみんなかっこいいよね」と聞くと「えー俺興味ないし~」と水泳教室に長年通うR君のつれない反応です。「私はスポーツと聞くだけでいやな気持になる」とSさん。「そうかなぁ、スケボなんかめっちゃかっこいいと思わん?」と聞く職員に、みんな「別に~」と言う反応。

筆者が子どもの頃にはメキシコ五輪で塚原光男が「月面宙返り(ムーンサルト)」を決めては心躍り、ミュンヘンでの男女バレーボールの金銀メダルアベック獲得で涙し、札幌五輪の笠谷幸生の大ジャンプを真似て机から飛び降りて怪我をする男子が続出する等、思い出がたくさんあります。

でも、この子たちは興味がないのです。R君などは「お気に入りのアニメが延期になって腹が立つ」くらい嫌いだそうです。T君などは体操クラブで練習しているのに、体操男子で橋本大輝が個人で金2つを受賞したことすら知らないのです。筆者も決して運動全般が得意だったわけではありませんが、この興味の落差は何だろうと首をかしげています。まぁ、子どもたちは、「おっちゃんら何興奮してんの?」と思っているでしょうが…。

将棋楽しかったよ

P君とQ君で将棋対局です。P君は最近家で将棋のテレビを見て勉強をしています。Q君は祖父とよく将棋をするので経験豊富です。勝負はQ君が勝ちました。やはりQ君の方が何枚も上手で,後半P君は逃げることしか出来ない状況でした。P君に感想を聞いてみると,「楽しかった!」と元気よく言います。「でも勝負は負けたよね。その時の気持ちはどうだった?」と聞きました。P君は「次は勝ちたい,でも楽しかった!」としきりに「楽しかった!」と言い続けました。P君は聞かれていることよりも、自分の関心を言うことが多いです。この時は「楽しかった!」という気持ちが強かったのだと思います。

「次は勝ちたい?」と聞くと,「それはいいからまたあの子(Q君)と将棋したい。」と答えました。彼は以前マイクラで遊んでいる時に他の子が作っているものを壊して遊んだり,設定遊び中に違うことをして「今は違うことしないで!」と他の子に言われることで他者の注目を浴びようとしていました。その結果「P君と遊びたくない~」と訴えてくる子もいました。

今日は対局中「いい勝負してるね!」「前よりも上達したね!」と声をかけられて嬉しそうにしていました。Q君とも「それここに動かすと次取られるで」「でもその後にこれで攻めようと思ってるから」とやり取りをしている姿も見られました。今日は人が嫌がることをして注目を集めるのではなく,ずっと楽しく将棋をしていました。だから彼の口からは勝ち負けよりも「楽しかった!」のだと思います。遊びで不適切な行動をするのは、それが一番注目を集める方法でしたが、適切な方法で注目を集めることが出来たP君は今週も将棋のテレビを見て勉強してくるのだと思います。

そうだったのかプールパニック

昨日朝からプールと思い込んで大声を上げて怒っていたいたOちゃん(言葉と機能的コミュニケーション: 07/29)が今日は落ち着いて通所してきました。朝からプールに入ろうともしないし、お昼から粛々とプール遊びをしたのです。何故だと思うか職員に聞いてみると、朝から全体にスケジュール発表をしたからだと言います。でも、毎日年がら年中、全体へのスケジュール発表はしているのです。スケジュールが朝に発表されるとOちゃんが認識しているなら、そもそも昨日のような見通しと食い違ったようなパニックを起こすはずがありません。

他の職員にもう少しよく聞いてみると一昨日も家庭の都合でお昼からお父さんが連れてきたと言うのです。ちょうどお昼からはプールだったのでOちゃんは楽しかったわけです。

「そうか!そういうことだったのか!」やっとOちゃんのプールパニックの原因が分かりました。時間やスケジュールがよくわからないOちゃんは状況でこれからの出来事を予測しているのです。「一昨日は【昼に】お父さんと事業所に来てプールでご機嫌だった→昨日もお父さんと【朝に】一緒に来た→お父さんと一緒に来たら昨日通りすぐにプールがあると思ったのにプールがないので怒った」というわけです。Oちゃんには朝も昼もないのです。「お父さんと通所すればプールがあり、職員と通所すればプールはすぐにはない」という理解だったのです。

職員は毎日毎日全体のスケジュール発表をしているから、それくらいOちゃんは理解しているだろうと思っていたのですが、見事に外れました。「昨日プールに入ったのが嬉しくて、今日は朝から入ろうと思い込んできた」という前回の読みも違ったのです。Oちゃんの中にはOちゃんの秩序があったのです。こんなふうに世の中を理解しているとなるとOちゃんの日常はハプニングだらけです。そして周囲の人もOちゃんの苦しみがわからないまま毎日を過ごすことになります。スケジュール支援は家を出る時に示す必要があると思います。「午前公園 お弁当 午後プール」程度の簡単な日課でいいのです。そして日によってスケジュールを変え、ルーティンな日課にしない工夫が必要だと思います。

 

 

自立課題は進化させるもの

N君の机の上に山のように自立課題の課題ケースが積まれていたので、これはどんな目的で積まれているのか職員会議で聞いてみました。いつもやっているもので一人でできるから置いてあるとのことでした。そこで、この先このN君の自立課題はどんなプランがあるのか聞くと、みんな「?」と言う反応でした。

個別課題と自立課題の違いについてよく質問を受けますが、個別課題とは、個人の能力に合わせ大人が教えたり一人で復習する課題を指します。自立課題も個別課題の一種ですが、狙いは作業が一人でできるように、一人で自立的に始めて終了できる、文字通り「自立」のための課題です。つまり、自立課題は課題の内容も変えていくし、作業の進め方も単に課題ケースを積んでおくのではなく指示書に従ったり、自分で準備をしたりして変えていくものです。

もちろん、繰り返し同じ課題をすることで速度が上がったり、正確性が向上したりすることは結果としてはありますが、速度や正確性を目的にしているのが自立課題ではありません。速度が遅いなら、それは量が多すぎたのですし、正確でないなら課題のジグ(自立的に作業ができる仕組み)の工夫が足りなかったと考えます。つまり課題を出した大人の側の問題だと考えます。課題を出す大人はN君ならどの程度の作業量をどの程度の時間で仕上げるのか、休憩を入れたほうがいいか、新しい自立課題をいつ入れるのか考えておく必要があります。

一人でできる課題がたくさんあるからたくさん積んでおくと言うのはあまり意味がありません。もちろんASDの人は繰り返しが好きですから、できるものを繰り返すのはそう苦痛でない場合が多いです。ただ、彼らも飽きたり疲れたりします。そんな様子も観察して、どれくらいの休息をしたらいいのか、何回のインターバルが良いのかも考え、変化をつけ進化をさせていくのが自立課題を提示する大人の役割です。N君には仕事が好きで元気に働く大人になってほしいというのが私たちの自立課題の最終目的です。