すてっぷ・じゃんぷ日記

今日の活動

リモート学習会

今日から、地域の通級の先生方と一緒に「T式ひらがな音読支援の理論と実践 | 小枝 達也 関あゆみ 」のリモート学習会が全五回で始まりました。発達性読み書き障害についての正しい知識を得ようということで、当法人とリンクして昨年からこの取り組みが続いています。

昨年は、11月に読み書き障害の診断テストである「STRAW-R」研修会を40名ほどのリモート研修参加者で実施しました。今回はその続きで、一昨年刊行された、小枝達也先生の本の学習会です。今日参加したのは26名ほどの先生方でした。学校の理解が進まない、教員の知識が少ないとぼやいているのではなく、みんなで勉強会をしながら知見を広げていくことが大事だと思うのです。

文字が読めれば読み書き障害ではないと信じている先生方がまだまだ多い中、流暢性の欠如こそこの障害の本体だという事や、単なる読み書きの環境が乏しいから生じる後天性のものではなく、視覚や聴覚、手足が動かないなどの機能的な障害と同じだという理解をすすめることが必要です。これを本質的に正常域まで持っていくことは無理にしても、読み書きの易疲労性を軽減して、興味関心を広げることは可能だという事をこの学習会を通して学んでいけたらと思います。

 

こだわりと不適切行動

L君には場所のこだわりがあります。事業所は狭いので利用者30名分のカバン置き場は作れないので、毎日利用する約10名分の棚に毎日氏名を貼り替えて利用してもらっています。L君は上の段に置くと決めているようでこちらも彼のこだわりを知っているスタッフは上段に名前を張るようにしていたのですが、たまたま知らないスタッフが下段に貼ったので、L君は大声を上げて「上段がいい!」とスタッフに怒鳴ったのです。それを見た他のスタッフが事を収めようと上段に名前を貼り替えたのです。

反省会で「それって良い支援なの?」と今度はまた他のスタッフが質問しました。事業所にしてみれば利用者の毎日入れ替わるロッカーが上段でも下段でもどっちを使ってもいいことだけど、指定された事が気に入らないと怒鳴って言い分が実現するのはいかがなものかと言う意見でした。その通りです。ロッカーはどっちでもいいけど不適切な行動をスルーして要求を実現してしまえば、怒鳴れば事が実現すると理解してしまいます。不適切行動はやり直しが大事です。

「○○さん、僕は上段にカバンを置きたいですと2の(大きさの)声でいいます」とやり直させて言えたら、良く言えたねと上段に置いてあげればよいのです。すてっぷは女性スタッフが多いので子どもの大声等不適切な行動に驚いてしまい、その行動をスルーしてしまうスタッフも少なくないのですが、みんなで協力して正しい行動を引き出し、双方が終わり良しにしましょうと話し合いました。その際に、こだわりについて認めるのかと言う意見がありましたが、それは時と場合や内容にもよるし、もしも変えなければならないこだわりなら、本人が荒れている現場で「勝負」すべきではなく、その場はうまく「折り合い(交渉)」をつけて終わらせ、計画を練って穏やかに行動変容させていく手段をとるべきだと話し合いました。

 

 

 

ローマ字入力と読み書き障害

すてっぷではみんなでキーボード入力ができるようになろうと、小学校からの利用者にはローマ字入力に取り組んでいます。視空間認知の良い3年生のJ君はキーの位置は覚えが早いです。しかし、J君は本が大嫌いで漫画ですら読みません。文字から音に変換するのが苦手なのだと思います。一方で、K君は興味のある本は大好きなのだけど、視空間認知が良くないのでキーボード入力は大嫌いで、音声入力で一生乗り切ると言って嫌がります。ローマ字でのキーボード入力も十人十色です。でも、みんな本当はスタッフがブラインドタッチで打ち込んでいくキーボード入力に憧れているのです。

ローマ字に取り組んでいるのは、読み書き障害のある子どもたちの中学時代に英文を読む課題があり、ここにものすごいエネルギーを割くことになるからです。その際にローマ字の表記を知っていればある程度対応できるのです。ただ、根本的には英語表記は不規則な発音が多くローマ字だけで対応できるものではありません。ここでは、みんなが憧れるキーボード入力と音声検索は恥ずかしいという動機を利用して、アルファベットに慣れてもらい、やり残している五十音表記の音声配列を長期記憶に定着させるというのが裏側のねらいです。

以前ブログに掲載した読み書きに障害のあるドローン操縦士の髙梨智樹さんは、オンラインゲームにハマったことでローマ字入力が身についたそうです。チャット機能で対戦相手とコミュニケーションを取りたい一心で覚えたと言います。確かに苦手なことへの取組は動機が大事です。子どもたちの動機も把握してうまくローマ字入力に結びつけてタイピングソフトで時間短縮を目指します。

「聴覚法」は読み書き支援に効果あり

放デイに小学校から通ってくるH君をはじめIさんもJ君もK君も書字速度が遅いですし、漢字の覚えも極端に悪く、毎年当該学年より低い学年の漢字ドリルを与えられて宿題にしています。なので、この人たちは学校では知的障害と思われて特別支援学級に入っています。通常学級では補習をやってもやっても効果が上がらなかったし、みんなについていけないと言われて入級したそうです。やってもやっても効果が上がらないのは読み書きに問題のない人たちの教え方だからで、教え方が適していなかったと言われた人は一人もいませんでした。

通常の子どもと違うやり方でトレーニングする読み書き訓練を10年前はバイパス法と呼びました。音声から文字変換を行う通常の変換回路が障害されているので他の回路を使うという意味で「バイパス」の言葉があてはめられました。今は、単純に「聴覚法」と呼ばれています。このやり方を知っている教員は極めて少なく、学習障害の支援をしている民間機関でもこの効果を知る専門家がいなければ取り組まれていません。しかし、やり方は極めてシンプルで、家庭で毎日10分程度2か月も頑張れば成果が出る訓練法なのです。

2012年に、ひらがなか、カタカナが1年間以上習得が困難であった発達性読み書き障害児 36 名に、音声言語の記憶力を使った文字訓練の結果が報告されています。全員知能には遅れがなく、単語の音声記憶にも問題のない小学生です。また、訓練開始前に訓練したいと言っていた児童です。

訓練は、1)50 音表を音だけで覚える、2)50 音表が書けるようになる、3)文字想起の速度を上げる、でした。平均 7 週間以内で、ひらがなやカタカナの書字と音読正答率が上がり、平均 98%以上の文字が読み書き可能になりました。さらに、1 年後に測定したカタカナに関しては高い正答率が維持され、書字の速度も上がりました。この研究で、良好な音声言語の記憶力を活用した練習方法が、正確性においても流暢性においても効果があることが示されています。

【訓練方法】
ひらがなとカタカナの訓練では共通の方法を用いています。実施前に、訓練内容について説明を行った後に、本人に練習の意思について口頭で確認します。本人の意思が明確でない場合や、練習を拒否した児童については訓練を行いませんでした。「良くなりたいから支援してほしい」という気持ちはとても重要だからです。

はじめに、50 音表の音系列の記憶(音声言語としての 50 音表の記憶)再生を行います。具体的には、「あ、か、さ、た、な、は、ま、や、ら、わ、を、ん」が言えるようにした後、「あ、あいうえお、あか、かきくけこ、あかさ、さしすせそ、…、あかさたなはまやら、らりるれろ、あかさたなはまやらわ、わをん」と各列の最初の音をあ行から言い、目標の列に達したら、あ段からお段へと言うように指導します。

3 日間連続して正しく言えることを、次の段階に移行する条件とします。これが可能となった時点で、音の系列に沿って文字列としての 50 音表の書字訓練を行います。書字はまず、「あ」から 7、8 割の文字を自力で書ける箇所まで練習し、そこまで正しく書けるようになったらさらに次の、7、8 割書ける箇所までを練習するというように、量を調整しながら行います。

50 音表がすべて正しく書けるようになったら流暢に書けるようにするため、小学校 3 年生までの児童は 2 分以内で、4 年生以上の児童では 1 分半で書き上げることを目標とします。3 日間連続してこの目標が達成された時点で、仮名訓練を終了とます。その後、ランダムに提示した 文字の書き取り(102 個)を行います。練習は基本的には自宅で保護者の監督の下にて 1 日に 10 分から15 分間行います。専門家は来所時に訓練方法が正しく行われているかどうかや,進み具合などを確認して適宜アドバイスを行います。

この方法は最初の専門的アセスメントが大事です。音声記憶経路の弱い方には向いていないばかりか、逆効果です。取組んでみたい方は「じゃんぷ」で専門的な支援をしますのでご相談ください。

 

「読み書きが苦手」の一般的理解

発達性読み書き障害の問題は特別支援教育の中心的課題と言われているのに、医療や教育の関係者の理解は「字は読めている」「字は書けている」という怪しい識別ラインのままです。H君は書字は遅いですが、本やネットの知識は山ほどあります。新しいことへの興味もすべてネットと本から得ており、明智光秀の生涯や短波無線については大人顔負けの知識人です。これだけ字が読めるのなら読み書き障害ではなく、眼球運動の調整の問題と医師が診断したそうです。専門家でも理解はこんなもんかとがっかりします。

彼は、電波の指向性について「しむせい」と読んだりします。「向」の字は小3で習い、コウ 向上 傾向 趣向;むく 向く 向き、と音読み訓読みを習います。彼はもうすぐ6年生ですが、音読みがなかなか入らないのです。音読みしかできない、あるいは訓読みしかできないというのはこの障害の特徴です。つまり一つの文字に複数の音が対応させられないのです。指向性は一例で彼と話していると音読み訓読みが無茶苦茶で、これまでの読書経験が豊富にあるならどこかで気づくはずの読みが気づかれないのです。これは音として読んでいるというより意味で読んでいるからでしょう。また、彼に本を音読させるとものすごく遅いし躓きも多いのです。

このように、読めているけど確実に読めていない問題を「流暢性」の欠如とか「変換速度」の遅さといいます。発達性読み書き障害の本体はここにあります。文字社会ですから文字が目に触れないことはないし、興味があれば本もネットも調べます。しかし、それで読み書き障害ではないとは言えないというのが今日の研究の到達点です。流暢にできるということは、少ないパワーで読み書きができるということです。読み書き障害を見つけるには、まず読ませたり書かせたりして「年齢並みに」流暢かどうかということが重要です。文字が読めるから障害はないなどとは言えないのです。