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デジタル対応、世界に20年遅れ

揺らぐ「学びの保障」 デジタル対応、世界に20年遅れ
教育改革 危機が促す

【日経電子版】 (2020/7/7 5:27更新)

新型コロナウイルスの感染拡大が教育を揺るがしている。全国休校がもたらした学習格差、画一的な教育制度、再考を迫られる大学のグローバル展開――。教育の新たな形を示せるかがコロナ時代の国家の競争力をも左右する。

 「自宅にいる人も見えていますか」。東京都立白鴎高校(台東区)の教員が教室内の生徒20人とパソコン画面に映る生徒20人に呼びかけた。同校は6月の分散登校期間、対面とオンライン(遠隔)の併用授業を行った。

休校中の4月に教員数人が始めた遠隔指導は全教員約70人が動画の配信をできるまでになった。生徒は宿題も遠隔で出した。田中幸徳副校長は「オンラインと対面を融合し、教育の質を高めたい」と意気込む。

デジタル技術を変革に生かすデジタルトランスフォーメーション(DX)の波が学校にも押し寄せてきた。休校中に地域間などで学習機会の格差が生じ、どんな時も学びを止めない「学びの保障」が揺らいだとの悔いが現場を突き動かす。

各国は先を行く。「最も遅れていることを改めて自覚した」。3月23日の国連教育科学文化機関(ユネスコ)での教育担当の閣僚級会合。フランスやイタリアなどの発言を聞いた萩生田光一文部科学相は絶句した。参加11カ国で日本以外の全てが休校中にオンラインで指導をしていたからだ。

上智大の相沢真一准教授(教育社会学)によると「日本の学校のデジタル対応は世界から20年近く遅れている」。2000年代前半は日本の学校のコンピューター整備状況は各国と大差がなかった。しかし09年には授業中のデジタル機器の利用状況が経済協力開発機構(OECD)加盟国で最低水準となり、18年も同様だった。「日本の学校は情報機器を遊び道具とみて遠ざけたが、世界は鉛筆やノートと同じ文房具にした」

3月下旬から原則休校になったオーストラリア。広大な国土で教育格差が生じないよう10年以上前から政府などが遠隔学習に力を入れ、子ども1人に1台の情報端末を配備してきた。休校中もホームルームから授業までオンラインが広く活用された。

日本にも好例はある。3月の休校後すぐ遠隔授業を始め、4月には全小中学校に広げた熊本市だ。16年の熊本地震での休校の経験を糧に、18年度からNTTドコモなどと組み、タブレット端末の配備に力を入れてきたことが奏功した。

デジタル技術に対応した人材を育てるためにも学校教育のDXは避けて通れない。18年の国際学力調査で読解力と科学的リテラシーが世界トップ級になった欧州のエストニアは、情報技術(IT)立国を掲げて約20年前から全学校の教室にパソコンとネット環境を整備。教材も電子化する。学習履歴を基に単位を与えて飛び級を認め、優れた才能を発掘する制度も整えた。

日本もコロナ禍を受けて1人1台の端末を今年度中に配備する目標は立てた。しかし登校を再開した途端にオンライン指導をやめ、対面授業に戻る学校も相次ぐ。非常時も学びを止めず、新たな時代を生き抜く人材を育てようとする強い意志はそこにない。問われているのは危機感と覚悟だ。

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放デイも、PCやタブレット端末を子どもの余暇支援にしか使えていません。子どもたちの学びのためにシステムを導入するとなると、大手のICT教育の会社と連携するしかありませんが、使い方はそれぞれの運営に任されているのですから、明確な戦略をもって取り組むべきだと思います。新しいものを導入するとき、あれこれ批判することは簡単ですが、成果を出すには地道な努力が求められます。努力もせず、先生が使えないだの予算がないだのとICT導入の困難ばかりを言い訳にしてきたトップは、スマホが使えない大人が少なくありません。それが結局、先進国の中で日本が取り残された原因のようにも思えます。

ただ、ICT機器を利用する大人のデジタル機器への親和性は大事ですが、今や一人が一台スマホを持ち、毎日スマホを使っています。ICT教育を進めるにあたって、これ以上に大人に必要な経験はあまりないと言えます。経営者や責任者のICTへの投資の決断一つでICT教育は進むはずです。

熊本豪雨災害

決壊、浸水…豪雨の爪痕深く 橋崩落は14カ所 熊本県南部

2020/7/6 6:00【西日本新聞 熊本版】 和田 剛 郷 達也 壇 知里

熊本県南部を襲った豪雨の被災地では5日、建物や道路の破損など爪痕の大きさが徐々に明らかになってきた。ぐずついた天気が続く中、決壊した堤防の緊急工事や水没した自宅や家具の片付けなど、各地で復旧に向けた動きも出始めた。

県によると公共土木施設の被害は、道路ののり面崩落や路肩決壊など計38カ所▽橋の崩落14カ所▽土砂災害30カ所▽人吉市の公共下水道施設1カ所-など。このほか、八代市坂本庁舎1階が水没した。

道路の寸断などにより5日朝時点で8市町村に孤立集落が確認された。球磨村は78地区1432世帯が孤立するなど被害が大きく、このうち8地区では停電と断水、電話の不通が重なっているという。

肥薩おれんじ鉄道八代-出水間は二十数カ所で被害が確認。くま川鉄道は保有車両5両すべてが浸水し、球磨川第4橋梁が流失した。

医療・福祉施設の浸水被害は、医療施設28カ所▽高齢者施設18カ所▽保育所6カ所▽障害者施設2カ所-など。

芦北町の芦北高校と芦北支援学校、球磨村の渡小学校などの校舎に床上浸水した。小学校7校▽中学校4校▽高校12校▽特別支援学校2校が6~8日(一部は6日のみ)に休校する。

人吉市中神町では、球磨川の堤防が長さ約40メートル、幅約4メートル、高さ約8メートルにわたって決壊。現場では5日、ブロックなどで堤防の形に戻す緊急工事が行われた。国土交通省八代河川国道事務所人吉出張所の中村良一所長(47)は「少しの雨でも水位が上がる。雨が降っているので怖い」と茶色く濁った川面を見つめた。 (和田剛、郷達也)

「ダムによらない治水」極限まで検討したい  蒲島知事

蒲島郁夫知事は5日、県南部の豪雨被害を巡り「球磨川の氾濫を実際に見て大変ショックを受けた。改めて『ダムによらない治水』を極限まで検討したいと確信した」と述べた。人吉市や八代市を視察後、県庁で報道陣の取材に答えた。

蒲島知事は2008年の就任直後、国が五木村に建設を予定していた川辺川ダム計画の白紙撤回を求めて反対を表明。翌年に民主党政権が計画中止を表明した。国と県、流域市町村がダムに代わる治水策を協議しているが、議論はまとまっておらず、建設計画自体の廃止手続きは取られていない。

蒲島知事は「白紙撤回の決断は県民の意向だった」として「この12年間で(ダムに代わる治水策が)できなかったのが非常に悔やまれる」と話した。 (壇知里)

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自然災害で福祉施設が受けるダメージは大きなものです。特に利用者が即座に移動できない入所型施設や児童施設の災害リスクは大きいです。災害危険地域に福祉施設などを作ってはいけないという法律が施行したのはごく最近です。そして、法律施行前に作られた施設はそのままです。

ハザードマップの危険地域には少なくない福祉施設があります。福祉施設は民間経営ですから、土地価格の安価な場所に作らないと経営が成り立ちません。安価な場所は、危険地域が多いのです。

蒲島知事の(川辺川ダム建設の)「白紙撤回の決断は県民の意向だった」という発言が開き直りだという批判は多いですが、ダムができれば減災ができるかどうかは別問題だと思います。想定外の自然災害が起きればダムも堤防も防波堤も役には立たないということを、私たちは平成時代に経験してきたからです。そして、最も弱い子どもと障害者と老人にこの課題は顕在化します。

老人や障害者や子どもが利用する施設は、優先して安全地域へ施設ごと誘導する政策が必要ではないかと思います。すぐさま命を守る行動を起こすような地域ではなく、弱い人が利用する施設は避難しなくてもよい地域に移設していくのが、人口減を迎える日本の優先課題だと思います。

 

「社会情緒的スキル」コロナ休校前後で比較

「社会情緒的スキル」、コロナ休校前後で子どもたちを比較 京大准教授ら

【京都新聞】2020年7月5日 19:20

子どもの能力のうち将来の学力や友人関係、問題行動との関連性が示され、教育や保育の現場でも注目されている「社会情緒的スキル」。思いやりや自制心といったIQ(知能指数)では測れない能力を指し、集団生活での関わりや家庭環境に影響を受けることが研究で分かっている。新型コロナウイルス感染拡大防止で休校・休園や外出自粛を経験した子どもたちに、同スキルの変化はあったのか。調査した京都大文学研究科の森口佑介准教授(発達心理学)に聞いた。

思いやり行動増える■「影響限定的 注視は必要」

-調査について教えてほしい。
「社会情緒的スキルを調べるためのアンケートを用いて、子どもの姿を、かんしゃくを起こすなどの行動面▽不安が強いなどの情緒面▽じっとしていられないといった多動、不注意面▽友達との関係性を示す仲間関係▽他人に気遣いができるなどの向社会性-の五つの側面から分析した。調査は4~9歳までの子どもを持つ保護者420人に対し、緊急事態宣言が出ていた4月にウェブで行った。私たち研究チームは昨年、同じ内容のアンケートを同じ属性の保護者に実施しており、子どもの変化をパンデミック(世界的大流行)前後である程度比較することができた」

-子どもたちにどのような変化があったのか。
「5つの側面を総合した全体としての結果には、ほとんど差はなかった。コロナ禍を過ごした子どもについては国内外で多くの調査が行われ、精神的な健康に問題が生じたと結論付けているが、それらとは異なる結果が出た。ほとんどの調査チームがパンデミック後のみのアンケートを行っている。子どもの情緒が不安定などという結果が出たとしても、その子が元々問題を抱えていたのかもしれないし、外出自粛などの異常な状況がネガティブな回答を誘発した可能性もある。今回のような状況下では悪い方向に変化すると思いがちだが、私たちの研究結果を見ると、現時点では必ずしもそうではないと考えている」

-側面ごとの変化は。
「向社会性のみで言えば、ほとんどの年齢でパンデミック時の方がスコアが高くなった。親から見ると、子どもは思いやりのある行動をとりがちになったということになる。この点は興味深い。治療困難な感染症が広がると、一般的に自分が所属していない集団(外集団)に対する差別や攻撃、偏見が増え、所属する集団(内集団)をより好むようになることが知られている。外集団は感染症を持っているかもしれないと考えて攻撃し、その結果内集団の結束が強まるという。その心理が子どもたちに働いた可能性がある」

-今後子どもたちに影響が出る可能性はあるのだろうか。
「調査結果から現時点で日本での影響は限定的だと考えている。ただ海外で報告されているように虐待が増加したり、経済状況の悪化で家庭環境が大きく変わったりしていた場合、ダメージは深刻なものになる。今後も注意して子どもたちの様子を調査していかなければならない」

デジタルメディア扱う能力 短期に飛躍的向上

森口准教授らのチームは、社会情緒的スキルの調査と併せて、子どもたちがタブレットなどのデジタルメディアを使いこなす能力の発達についても調べた。能力は短期間で飛躍的に向上していた。

調査は0~9歳までの子どもを持つ保護者700人が対象。画面の表示ボタンを押す「タップ」やファイルを移動して貼り付ける「ドラッグドロップ」などの操作スキルと、写真を見たり撮ったりする機能スキルを調査した。

結果では両スキルとも各年齢で上達が見られ、特に4歳以上では1歳程度高い年齢に相当するスキルを獲得していた。

森口准教授は「外出自粛やオンライン授業などでデジタルメディアに触れる機会が増え、タブレットなどを扱うスキルの発達を促した可能性がある」としている。

もりぐち・ゆうすけ 京都大文学研究科博士課程修了。乳幼児期から児童期における認知機能の発達的変化を研究する。著書に「自分をコントロールする力 非認知スキルの心理学」(講談社)など。

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保護者420人へのアンケート調査を武漢熱前後で行うとはかなり規模の大きな調査と言えます。簡単に言えばほとんど変わらなかったと言う結論です。武漢熱前後で一番はっきりしたのは大人の問題です。同調圧力に弱い大人は、根拠のはっきりしないことでも「みんなが言っているから」と簡単に流れてしまう傾向があります。心ある小児科医たちが何度も子どもにはほとんど影響のない風邪だと言っているのに、休校してでもクレームをかわそうとする事なかれ主義を子どもたちが学ぶことのないようにしたいものです。

学校へのお願いの仕方の極意

発達障害の小学生ママ必見!学校へのお願いの仕方の極意とは

更新日:2020-07-06【パステル総研】

1.発達障害の子どものスムーズな学校生活には先生との連携が必須です!
6月に学校が再開して、1ヶ月以上が経ちましたね。発達障害・グレーゾーンのお子さんの学校生活はスムーズですか?
今年は異例の3ヶ月と言う長期休暇を経ての新学期です。発達障害の子どもにとってはストレスも一層強く、登校しぶりがあるなど困りごとが増えているお子さんもいるかもしれません。
ではここでお母さんに質問です。
我が子の対応について学校へのお願いは、きちんとしてありますか?
発達障害・グレーゾーンの子どもは脳の発達が未熟であるために
・集中して先生の話を聞くことができない
・指示が通りにくい
・見通しを持って行動することが苦手
など様々な特性を抱えています。そのため、学校生活ではみんなと同じようにできないことが多く自信を失う機会も増えがちです。
さらに、学校の理解がないと適切なサポートも受けられず、「努力不足だ」と誤解されて叱られてしまう可能性もあります。
つまり発達障害の子どものスムーズな学校生活には、先生との連携が必須なんです。
と言っても「うまく先生に伝える自信がない」「ちゃんと対応してもらえるのか不安…」と言うお母さんもいるかもしれませんね。
実は、学校へのお願いの仕方には「必ず押さえるべき注意点」があるんです。

2.先生のホンネと学校へのお願いの仕方の極意とは?
さて、学校へのお願いと言うと「サポートブック」などの書面形式を取ることが一般的です。
そして「あれもこれも先生に伝えないと!」と細かくたくさん記入するお母さんもいらっしゃるようです。
しかし、それは大きな誤解です。
実は、先生が求めている学校へのお願いの書面というのは、「とにかくシンプルなこと」です!
学校の先生はたくさん業務を抱えており、とにかく忙しいです。
内容が多すぎると、
・読む時間がない
・読めたとしても、35人学級を回しながら全ての要望に応えるのは無理
・「せっかく伝えたのに全然配慮してもらえていない!」とお母さんを落胆させてしまうのではと心配になる
など、先生の負担を増やしてしまうだけで効果が得られないことが多いんです。
また新学期のこの時期に渡す書面は、あくまで「先生とこれから連携を取るきっかけ作り」という位置付けです。
ですから、
・まずは先生に知ってほしい必要最低限の情報があればOK
・書面を読んだ先生に「もっと話を聞きたい!」と思ってもらえること
が重要なんです。

3.効果的なサポートレターの書き方を大公開!
◆苦手と得意はセットで!
我が子の学校生活に不安を感じて、先生に苦手なところをたくさん伝えたくなる気持ちは分かります。
しかし「〇〇ができません」「××が苦手です」とできないことばかり言われても
・「この子は大変そうだな…」と不安を感じさせてしまう
・できないところばかりに目が行くようになってしまう
などと、先生の精神的な負担を大きくしてしまうだけです。
そこでやってほしいことが、苦手なことと得意なことをセットで伝えることです。例えば
「行動の切り替えが苦手ですが、好きなことにはとことん集中して取り組みます」
「字を書くことは苦手ですが、絵を書くのは得意です」
と言う感じで、我が子の長所もきちんと伝えてほしいのです。
こうすることで、先生の気持ちも軽くなりますし、学校でもスムーズに対応してもらえやすくなります。
◆おうちでの様子や対応を伝える
2つ目は、おうちでの様子や対応をしっかりと伝えることです。
学校との連携で欠かせないのは「親の協力する姿勢」です。学校での困りごとの対応を全て先生にお任せするのではなく、
・お母さんがしっかり家で対応していること
・学校へお願いしたい対応の範囲を明確にすること
の2つを伝えることが大事です。例えば
「待つことが苦手です。家では『ちゃんと待ててるね』とこまめに褒めることできちんと待てています。学校でも待つ場面があったら一言声をかけていただけますか?」
と言うお願いの仕方をすることで
「このお母さんはおうちでも特性に合わせた対応をしているんだな」
「こうやって対応すればいいんだな」
と先生の協力を得やすくなります。
◆日頃から先生への感謝を忘れない
そして、学校へのお願いで一番大事なことは日頃から先生への感謝を忘れないことです。
先ほどもお伝えしたように、先生は1人で35人学級を回さないといけない上に業務も多く、とても忙しいです。
普段から、連絡帳や電話で
「先生のおかげで登校しぶりもなく通えています。」
「先生に褒められた!と嬉しそうに話してくれました。」
などこまめに感謝を伝えるようにしましょう。
学校へのお願いの仕方の極意とは「とにかくシンプルなこと」。
ポイントは
・苦手と得意はセットで伝える
・おうちでの様子や対応を伝える
・日頃から先生への感謝を忘れない
という3つです。
たくさん書いても先生も「対応しきれない!」となってしまうので、1つの項目につき記入することは多くて3つまでが理想です。

ADHDの診断は正しいのか

ADHDの正体―その診断は正しいのか―

岡田尊司 著

Shincho LIVE! (2020年5月号書評)finalvent

数年前から、著名人が「自分は発達障害だった」とカミングアウトするようになった。インターネット上でも自己紹介の一環のように、自身を発達障害だと語る人が目につく。実際、精神科でそのように診断される人は増えている。発達障害は子ども特有のもの、というのは昔の話だ。大人になってからの診断で、ようやくわかったという感じである。そうした大人の発達障害には、注意欠如や落ち着きのなさが特徴のADHDや、コミュニケーションが取りづらくなりがちなASD(アスペルガー症候群とも言われていた)がある。その両方を備えていることもある。

こうした世相と呼応するように、本書の第一章に興味深い症例が出てくる。64歳の男性Uさん。子どもの頃の成績は優秀だったが友だちはほとんどいなかった。テレビ業界に入ってからは目覚ましい成果も上げていたものの、ずっと生きづらさを抱え、50代で精神科を受診し、抗うつ剤を飲む日々となった。60歳で退職し無気力な日々を過ごしていたが、大人の発達障害を扱ったテレビ番組を見て、自分はこれではないかと思い至った。診断を受けたところ大人の発達障害とわかり、SSRI(抗うつ剤)に加え、コンサータが処方された。しかし、症状が改善した実感はない。

この症例は本書の問題提起を象徴的に示している。そもそも「大人の発達障害」や「大人のADHD」とは何か。近年そういう診断を受ける人が増えている背景には、どういう事情があるのか。診断・投薬を受けても、なぜ症状が改善されないのか。本書はこうした「大人の発達障害」、特に「大人のADHD」が近年増えてきた実態について、最先端の研究成果を含む医学資料の読み直しと臨床経験を基に、その仕組みや背景を、正直、ここまでするかというほどに根気よく追究している。

そもそも「大人のADHD」と診断されている実態は何か。著者が打ち出す仮説は世界の常識を一変させてしまう。「大人のADHD」は、本来子どもが診断対象であった発達障害の延長で起きる症例ではなく、別の原因による症状かもしれない、というのだ。著者はこれを仮に「疑似ADHD」として考察を深化させる。

なるほどと私は思う。先の64歳のUさんの生きづらさや診断への希求は、まさに63歳の私に重なるからだ。現状、「大人のADHD」と診断されている事例には、著者の言う「疑似ADHD」が多く含まれているのではないか。その疑念と追究は、私のような読者には衝撃的ですらあった。

「大人のADHD」という診断と投薬によって、現在の症状が改善されるなら、それでいい。それなら診断と投薬はその人を支えている。しかし、「生きづらさ」を抱えつつも、コンサータなどの投薬が効かないし、症例が改善されていないという問題を抱えている人には、本書の提言は重要な意味を持つだろう。

誤解なきように付記すれば、本書は発達障害の診断のもとになる精神疾患の国際的な基準「DSM-5」を否定するものではない。現状ADHDと診断されている実態には次の4種類があるのではないかと考察しているのである。
(1)発達障害による本来のADHD
(2)本来のADHDが環境要因で悪化している
(3)愛着障害など養育要因から疑似ADHDとなっている
(4)養育要因以外の理由で疑似ADHDとなっている
 
こうした精密な考察から見えてくるのは、生きづらさを実感している人それぞれの経験や環境要因を精査する必要性であろう。「あなたは大人のADHDです。このお薬で改善されます」といった明快な答えが得られないとしても、投薬の再検討により副作用を減らすこともできるし、真の問題改善の端緒が得られるかもしれない。

また本書はこうした「大人のADHD」の問題に加え、発達障害と診断された子どもにかかわる大人のあり方についても十分な提言を行っている。発達障害の子どもを抱える親や教師にも、多くの示唆が得られるだろう。例えば、発達障害の子どもの学童期には、押さえつけ型の教育をしても反発だけが大きくなる。問題点に目を向けるより、まず理解者となり、精神的な安全基地となることが大切である。また、親として否定的な態度にとらわれているときには、自分自身の親との関係を見直すことで事態を客観的に扱えるようになる。

発達障害や生きづらさに安易な答えはない。著者は「地道な内省とかかわりの先にこそ、根治への道は続いている」という。本書は強い励ましになるだろう。

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岡田 尊司(おかだ たかし)

Okada Clinic 院長

1960年、香川県に生まれる。東京大学文学部哲学科に学ぶも、象牙の塔にこもることに疑問を抱き、医学を志す。ひきこもった時期や多くの迷いを経験する。京都大学医学部で学んだ後、京都大学医学部大学院精神医学教室などで研究に従事するとともに、京都医療少年院、京都府立洛南病院などに勤務。山形大学客員教授として、研究者の社会的スキルの改善やメンタルヘルスの問題にも取り組む。著作家や作家・小笠原慧としても活動している。