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もう一つのやまゆり園で今も続く悲劇 1日20時間、個室に閉じ込め
もう一つのやまゆり園で今も続く悲劇 1日20時間、個室に閉じ込め
10/3(日) 【共同通信】
神奈川県の「やまゆり園」と聞いたら、多くの人は2016年に19人の障害者が殺害された相模原市の「津久井やまゆり園」のことを思い出すだろう。だが、今も悲劇が続いているもう一つのやまゆり園がある。(共同通信=市川亨)
▽県が直営
「とにかく、いろいろまずいことがあるんです」。こんな情報提供があったのは、数カ月前のことだ。神奈川県中井町にある県立の知的障害者入所施設「中井やまゆり園」の職員だという。
「入所者を1日20時間以上、外から鍵を掛けた個室に閉じ込めている」「入所者の不自然なけがが絶えない」「職員による暴行なのに、事故扱いにして隠蔽(いんぺい)した」などと、にわかには信じ難い話が次々と出てくる。
中井やまゆり園とは、どんな施設なのか。中井町は横浜から電車とバスで1時間ほどの神奈川県南西部にある。山林や農地、工業団地などが広がるのどかな風景の町だ。
施設の名前は県の花である「ヤマユリ」にちなむ。定員は122人。自閉症を含む重度の知的障害者を中心に、今年3月時点で94人が入所している。殺傷事件があった相模原市の津久井やまゆり園は県から委託を受けた社会福祉法人が運営するが、中井園は県の直営だ。
▽鉄の扉
施設には七つの「寮」があり、男女別に分かれている。共同通信が入手した園の内部資料によると、長時間の閉じ込めが行われているのは、自閉症で自傷行為や暴力などの強度行動障害があるとされた人向けの2寮が中心。男性用の「泉」寮と女性用の「秋」寮だ。
取材に応じた複数の職員によると、泉寮の部屋は鉄製扉。鍵が二つあり、一つは外から施錠できるようになっている。職員は各部屋にあるカメラの映像を職員室のモニターで見ており、短時間の散歩や活動、入浴などのときだけ入所者を連れ出すという。
個室施錠の状況を一覧にした内部資料では、今年2月時点で1日20時間以上施錠されている人が泉寮と秋寮で5人。8時間以上の施錠などに範囲を広げると、五つの寮で計22人に上る。
▽身内意識
神奈川県は今年5月、22人のうち泉寮と秋寮の男女各1人の長時間施錠について障害者虐待防止法に基づく「虐待」と発表している。
相模原の殺傷事件後、県立入所施設の支援の在り方が問われたことから、県は入所者の状況について住民票のある市町村に情報提供。男女各1人はたまたま住民票所在地が同じ市で、その市が虐待と認定した。
だが、発表資料には施錠時間は「8時間以上」としか書かれていない。園の職員は「県は時間を短く見せかけている。身体拘束が認められる一時性や切迫性などの要件を満たしていないのに、県立だから身内意識で県のチェックも働いてこなかった」と証言する。
▽独特の考え方
内部資料によれば、5月に虐待と認定された男性は8月になっても依然、月平均で1日20時間以上施錠されている。
菅野大史園長は取材に対し、9月時点でも3、4人について20時間以上施錠していることを認めた上で「行動障害があり、安全のためやむを得ない。身体拘束の要件は満たしていると考えているが、これでいいとは思っていない。短くするよう取り組んでいる」と話す。
ただ、職員らによると、実態はあまり変わっていないという。8時間以上連続して施錠しないよう数時間ごとに5~10分ほど解錠するようになったが、「声を掛けるわけではないので、入所者は気付かずその間も部屋にいる。これで『長時間の施錠はなくしました』と言うつもりだろうか」と職員の1人。
別の職員は「泉寮では『人と交わると入所者が不安定になる』などと独特の考え方が何十年も続いていて、変えようという気配はない」と証言する。
▽津久井園でも
長時間の閉じ込めは、殺傷事件が起きた津久井園でもあったとされ、事件の判決で横浜地裁は植松聖死刑囚(31)について「利用者を人として扱っていないように感じ、重度障害者は不幸で不要な存在と考えるようになった」と指摘した。
県の有識者会議は今年3月にまとめた県立入所施設全体に関する報告書で「津久井園を指導する県自身が権利擁護に対する認識が低かった」と批判。中井園の職員らは「障害者を人として扱わない体質が事件の背景にあったのに、変わっていない。事件後に県が掲げた『ともに生きる』というスローガンは言葉だけだ」と話した。
▽「仕方ない」は間違い
自傷行為や暴力などがある障害者を長時間閉じ込めるのは、やむを得ないことなのだろうか。強度行動障害の支援に詳しい鹿児島大の肥後祥治教授は「それは違う」と否定する。
「確かに元々の障害の特性がベースにはなっているが、周囲とのコミュニケーションがうまくいかなかったり、置かれた環境が合っていなかったりしてひどくなった状態が強度行動障害だ。『仕方ない』という考え方は間違っている」と話す。
その上で「興奮状態になっても通常は10~20分程度で収まる。20時間以上の施錠は考えられない。他の施設でも聞いたことがない」と、異常性を指摘。「虐待であり、人権侵害と言っていいだろう。なぜ行動障害が起きるのか原因をきちんと調べ、ほかの方法を先に考えるべきだ」と考え方の転換を求める。
▽骨折「事故」
中井園の職員らによると、職員の暴力で入所者が骨折したケースを事故扱いにして隠蔽した疑いもある。
問題のケースがあったのは19年7月。男性寮の一つ「山」寮でのことだ。施設内の床に横になっていた20代の男性入所者が鎖骨を骨折。ある男性職員が洗濯物などを運ぶカートを肩にぶつけた疑いを指摘する声が他の職員から上がったが、園は「寝転がっていた入所者を、他の入所者が踏んだことが原因と推測される」と事故として処理したという。問題の職員は4カ月後の19年11月に別の入所者を踏みつけるなどの虐待をしたとして、今年1月に減給処分を受け、その後異動した。
同園は19年11月の虐待を受け、20年6月に「虐待防止マニュアル」を策定。入所者がけがをしているのを見つけた場合は「確認・情報共有シート」に記入することになっている。だが、職員たちによると「書類仕事が増えた」と不満が出ており、徹底されていない。
入所者が大けがをしたり、不自然なあざが体にできていたりすることもあったが、「転倒」「自分でぶつけた」「暴れたため押さえつけた」などとして報告されているという。
長時間の施錠などに関する報道を受け、同園と県は9月27日に記者会見を開き、改善に向け外部有識者を交えたプロジェクトチームを設置すると発表。年内に改革プログラムをまとめる方針だ。虐待の隠蔽疑いについても再調査する考えを示した。
このほか、県は中井園を含む県立入所施設の在り方について7月から有識者委員会で議論しており、不適切な支援を問題視する意見が委員からも出ている。委員会は10月に中間的な論点整理をする予定だ。
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読んでいてつらくなる記事です。30年ほど前に強度行動障害の成人入所施設の見学をした時の、施設長の言葉を思い出しました。「私たち施設職員は学校に足を向けて寝てはいけない。学校のおかげで私たち入所施設の職員の仕事がある」との皮肉を職員に語っているというのです。当時教員だった私には思い当たる節がいくつもあり、胸をえぐられるような思いでした。学校で、ASDの障害特性を無視した不適切な指導が行動障害の山を作っていたからです。
絵カードなんて社会にはないから学校で使う意味がない。間違った行動は叱らなければ治らない。行動療法なんて動物の調教と同じだ。言葉で何度も言えばわかる。言葉のシャワーが大事だ。言葉を育てる事が行動問題を解決する方法だなどと、視覚支援・構造化支援と聞くと敵のように嫌う人々がいました。研究者の中にも、過度な構造化支援は後に行動問題を悪化させると科学的な根拠も示さず、まことしやかに語った人もいました。
強度行動障害の問題は厚労省でも昭和の時代から調査研究が進められていますが、分かったことは障害の早期発見と早期支援です、そしてその支援は障害特性に応じた支援です。ASDの方の最も、オーソドックスな支援は構造化支援と表出コミュニケーション支援です。これを今否定する人はいませんが、上手くいかないからと視覚支援を使おうとしない教員はいます。どんな方法でも、教条主義的な理解やステレオタイプな用い方では上手くいかない場合はあります。しかし、それはメソッドが原因ではなく、それを使う人の質的な問題です。
やまゆり園で、行動障害の方の居室を施錠したかどうかという問題ではなく、ASDの方への対応方法や構造化支援や行動療法を理解し実施できる職員がどれほどいるのか、利用者のケースワークの時間をどれくらい保障しているのかを調査しない限りは、現場を追い込み、担当してくれる職員のなり手がいなくなるだけです。鍵をかけるのは、確かに簡単です、利用者と障害理解のない職員との摩擦も減らせるので、表面的には事故も起こりにくくなります。しかし、鍵をかけている限りは職員の支援力量も変わらないままです。神奈川県がどういう結論を出すのか見守りたいと思います。