みんなちがってみんないい
息子たちに働く選択肢を
自閉症の息子たちに働く選択肢を山添利也さん
2021年1月10日 10時00分【朝日新聞】西岡矩毅
レモンやミカンなど和歌山産の食材を使った菓子をプロデュースする山添利也さん(46)。県内の生産者、パティシエ、デザイナー、福祉事業所メンバーらと一緒にスイーツブランド「KANOWA」を2014年に立ち上げた。「それぞれの得意を持ち寄って、お菓子でつながる輪を広げたい」
昨年12月に販売したのは、ミカンのパウダーをまぶしたクッキーなど。パウダーは、えぐみを抑えた果汁を濃縮して作った。障害者福祉施設の利用者がミカンの外皮と薄皮を一つずつ丁寧に取り除いた果肉を搾ってできたもの。利用者の集中力のたまものだ。
和歌山市出身で、関西大学卒業後、大手経営コンサルタント会社に就職。2001年に高校時代の友人に誘われ、和歌山市内にパスタとケーキが自慢のカフェをオープンさせた。
障害者福祉施設を自分事として考えるようになったのは09年。当時3歳だった長男が自閉症と診断されたことだった。市立幼稚園に通っていたが、知的障害などがある子どもたちがそれぞれのペースで過ごす児童発達支援センターに移った。
父親たちが集まれば、決まって話すのは10年以上先のこと。特別支援学校に入れば、小中高等部までは過ごすことができるが、卒業後の進路は決められていない。「息子を受け入れてくれる所はあるのだろうか」と心配になった。
「将来、自分の長男も通うことになるだろう障害者福祉施設の価値を高められたら」。カフェの運営から退き、菓子の企画開発などをする会社を経営。そこの事業の一つとして、福祉施設などと一緒に菓子を作る「KANOWA」を立ち上げた。注文が1カ月以上先まで埋まっている「生レモンケーキ」など人気商品を生み出してきた。
現在、14歳になった長男は、言葉を話すことが難しい。それでもタブレット端末で画像編集をしたり、地図を使って行きたいところを素早く探して見せてくれたりする。
「息子はできないこともあるが、できることだってある。息子と同じ境遇の人たちが、仕事をして楽しく暮らせる環境を作りたい」。得意の菓子プロデュースで輪を広げている。(西岡矩毅)
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施設商品の販売ネックは、販路です。ご近所と知り合いの善意だけでは販路もなかなか拡大しません。また、善意の購入は商品の良しあしが現場で把握しにくいので商品開発の足かせになります。最近は、ネット販売が容易になってきたので商品さえヒットすれば売上も期待できるようになってきました。おいしければ売り上げが増え飽きられれば売り上げが減るという売り上げと商品の人気が連動しているところもよいと思います。
昭和の頃も、10年先20年先を見越して共同作業所作りが保護者の手で展開されました。ただ、その頃は資金を集めて我が子の卒業後の居場所を確保するだけで精一杯でした。先にも述べたように「善意で買ってもらう」「安かろう悪かろう」の商品も少なくなかったし、施設側も商品販売で勝ち残ろうとは考えていませんでした。その結果、商品の質が良くならない、販路が少なくて撤退する現象があちこちの福祉現場で起こりました。
今は、記事のように一般企業とも共同で行う仕事の中身を考えていくという時代に変わってきたのかもしれません。そのためにも付加価値の高いもの、持続性が長いものをどう開発していくのが問われているのだと思います。福祉だから市場競争が免除されるわけではありません。福祉だろうとなんだろうと、そこで商品を作り販売する人たちのプライドを持続するには、様々な経営のノウハウが必要なのだと思います。