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低学年に性の第一歩を教えています 小学校のプール授業

低学年に性の第一歩を教えています小学校のプール授業の奥深さ
斎藤秀俊 | 一社法人水難学会会長、国大法人長岡技術科学大学大学院教授

6/21(月) 【Yahoo!ニュース】

2年ぶりの学校プールの季節。先日、小学校勤務33年のベテランから「2年生、心配だわ」と心配の声を聞きました。低学年に着替えの機会を使って性の第一歩を教えているのですが、今年の2年生はどうしようかと。

2年生、1から着替え指導すべきか
2年ぶりの学校プールの季節がきました。昨年はコロナ禍でほとんどの学校プールがお休みとなりました。特に小学1年生は大きなプールでのびのびと泳ぎを勉強するはずだったのがかなわず、泳ぎが1年遅れになってしまいました。

先日、小学校勤務33年のベテランから「2年生、心配だわ」と心配の声を聞きました。「1年生って学校では勉強ばかりでなくて、すべてのこと何でも1から教えるのよね。例えば体育の授業の前に、体操着に着替える練習をするのよ。もちろん、体操着から普段着に着替える練習も。」「プール授業の着替えは普段の体育と違って水着でしょう?教えることが一杯あるのよね。」「去年はプール授業が無かったでしょう?だから2年生に最初のプール授業で1から着替え方を教えなくちゃ。そうすると、2年生の授業を半分そこにあてがうことになるかな。」

彼女の学校では2校時をくっつけてプール授業としています。2年生に着替え指導をきちんとやるとなると、水着への着替え方に20分、普段着への着替え方に20分、合計40分で初回のプール授業90分の半分近くを使うことになります。2年生なりの水泳授業も待ち受けている中で、この時間は痛いそうです。でも、「丁寧に教えなければならないことが着替えにはある」と言います。

性の第一歩を教える機会
これまでの担任の多くが低学年。ベテラン先生は若いときから着替え指導にこだわりを持ってきました。

「1年生に何も教えずに着替えをさせたら、真っ裸になる児童はいるでしょうね。そうでなくても、大切なところが見えているのに自分では気が付かずにいることもあるのよ。」

人間の尊厳、性に関わる大切な一歩。コロナ禍でプール授業ができず1年間そのままになっていました。陸上の体育と違って、プール授業では着替えの時に下着をとる瞬間があります。1年生の時に「大切なところを人に見せないように気を配って着替える」ことを実践で教えるのですが、それが昨年はできなかったのです。

「家庭ではお風呂に入るときには特に気にしないじゃないですか。その雰囲気を学校に持ち込んでは困るんです。中には人前で裸になることに抵抗のない子供もいるの。」

学校は公共の場。家庭とは違ったルールがあります。公共の場ではいろいろなトラブルから自分を守らなければならないし、そしてそこに集まるお互いを尊重しあわなければなりません。特に性の第一歩は人間の尊厳を考える第一歩ですから、まだ性への自覚に乏しい低学年から行動で覚えさせたいとのことでした。

「着替え中に友達の腰タオルをわざと下げる子、いるのよね。」

同性間でも、友達の羞恥心をあおるようないたずらをする子がいます。それがいけないことだということを低学年からしっかりと教えないと、単なるいたずらという認識のまま成長する恐れがあります。だからこそプール授業時の着替えは「してはいけないこと」を身体で覚えることができる、低学年にとっては良い時間だということでした。

性の第一歩を教えていきつつ、ひいては人間の尊厳を守る心を育みたいとベテラン教員は意気込んでいました。

下着がポイしてあることも
ベテラン教員の学校では、いわゆるラップタオル、つまり大きいサイズのバスタオルにゴムを縫いつけ、両端にはスナップを取り付けて留められるように作られたスカート状のタオルを家庭に準備してもらっています。

女の子はそれを肩から下げて、男の子は肩か腰から下げて着替えをします。着替えの指導のイロハはここから始まるのです。

「最も多いのは、スナップの留め忘れだね。肩から下げているタオルで身体を隠してるつもりなのに、スナップを留め忘れた隙間から大切なところが見えてしまうの。だから、スナップの留め忘れがないかしっかりチェックしてから、着替えに入るようにしているよ。」

「男の子の場合は、わざとだらしなくタオルを巻くような児童がいるのよね。どこか、家庭のお風呂を引きずってる感があるかな。だからしっかり、しつこく指導しますよ。きちんとタオルを巻く指導から始めます。」

水着に着替えて、それでおしまいではありません。水を漏らさぬ指導が続きます。脱いだ下着をどうするかの指導です。

「脱いだ下着を机の上とか、椅子の上とかにそのまま脱ぎ捨てる児童がいるのよ。女の子でもいるかな。脱いだ下着は人に見せてはいけない。だから、すぐに袋の中にしまうように徹底指導します!」

なるほど、たしかに公衆浴場の脱衣所を思い出すと、下着が丸見え状態で脱ぎ捨てられているカゴとバスタオルをかけて中が見えないようにしてあるカゴがあります。これまでどういう教育を受けてきたかが、大人になってから行動で明確になるものだと納得してしまいます。

一つ一つ丁寧に着替えを指導するのはたいへんよいことですが、プール授業前後ともなると教室はあたかも戦場の様相です。特にプールから上がって水着から普段着に着替える時がたいへんです。子供たちがびしょびしょの状態で、しかも教員もびしょびしょ。床を濡らさないようにする工夫をしながら子供たちを教室に誘導して、それからさらに床を濡らさないようにして、指導を緩めることなく着替えさせなければなりません。

「33年繰り返しているので、ワンオペの達人になったけど、赴任したある小学校ではボランティアで学校に来てくれるおうちの方々が低学年の着替えを手伝ってくれました。」

教員も着替える時間を作ることができるし、おうちの方々にも公の場で着替えに注意する大切さが分かって、大変良いシステムだと思ったそうです。

家庭にお願いしたいこと
「特に1年生なら、プールが始まる前に、家庭で着替えの練習をしてもらえるとうれしいです」とベテラン教員の心からのお願い。

最も訓練してほしいことがラップタオルの取扱い方法。タオルによっては4つも5つもスナップがついていて全部留めるのがおっくうになり、2つ、3つ留めればいいかと妥協してしまいます。加えて、身体の水分を拭きながら下着を着ける練習。お風呂から上がった直後に、これもラップタオルを肩や腰から下げながら家庭で確認してほしいそうです。

下着も洗濯かごに直接ポイするのではなく、プール袋に入れてしまう練習をプール授業が始まる前とか、最中とか、お風呂の脱衣室で行ってほしいそうです。

参考 生命(いのち)の安全教育
令和2年6月に政府の「性犯罪・性暴力対策強化のための関係府省会議」において、「性犯罪・性暴力対策の強化の方針」が決定されました。

この方針を踏まえ、子供たちが性暴力の加害者、被害者、傍観者にならないよう、全国の学校において「生命(いのち)の安全教育」が推進されています。

これに併せて、教材・指導の手引きが公開されています。例えば、生命の安全教育教材(小学校(低・中学年))では、次の項目について子供向けに図1のようなスライドを使って説明できるように編集されています。

・「水着で隠れる部分」は自分だけの大切なところ
・相手の大切なところを、見たり、触ったりしない
・いやな触られ方をした場合の対応

参考スイミングスクールでは
水難学会の新西道浩理事によれば、スイミングスクールでは小中学生の会員を受け入れる際にプライベートゾーンに関する指導をしているそうです。会員向け広報誌での周知やロッカー巡回という指導を定期的に行っていて、かなり早い時期から生命の安全教育を意識してるとのことでした。
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水着の着替えなど昭和の小学校出身の大人は当時教えられた経験はありません。あの頃はただタオルを腰に巻いて着替えていたので面倒だなぁと思っていた事と、塩素臭とコンクリートの匂いの混ざった薄暗い更衣室の記憶があります。時々、素っ裸で着替える友人もいて、「勇気あるなぁ」くらいにしか思いませんでした。そう言えば昔は、「このパンツ誰のですか」と帰りの会で先生が聞いていましたが、子ども心には「てことは、本人はすっぽんぽんでズボンはいてるのか」と妄想していましたが、友人に聞くと「水着の上からに決まってるやんけ」と笑われた思い出があります。

プールの低学年の授業が性教育の第一歩とは気が付きませんでした。ベテランの先生が「ワンオペ」で指導しているとのことなので、多くの先生が具体的な実践を見ていないかも知れません。学校は教科だけを教えているのではなく、学校生活全般で様々な事を教えています。発達障害の子にとっては、教科外の不定形な集団指導場面が苦しい場合もあります。けれども、みんながいないと「恥ずかしい」の意味も教えにくいです。でも、学校はいろんなこと教えているなぁと教員OBながら感心します。

 図1 生命の安全教育教材(小学校(低・中学年))のスライドの一部抜粋(筆者抜粋)