あの時ほしかったものを不登校の「その後」見つめるびーんずネット・金子純一さん(49)
2021年5月17日 【東京新聞】
七年前、仕事から帰宅すると、テーブルの上に小学三年だった長男からの書き置きがあった。「学校に行きたくないです」
突然の不登校にひどく慌て、悩んだ。「学校に行くことに意味を感じていたし、弱さや甘えを許してしまうと将来が心配だ、と思っていましたから」。一緒に風呂に入るたびに「新学期から学校に行こうな」と言い聞かせた。
長男は漢字を書くのが苦手だった。漢字ドリルの不正解だった部分に、先生が付せんをつけていく。その付せんが連なって、「ライオンのたてがみみたい」と同級生にばかにされたのだという。「漢字のない国に行きたい」と長男は打ち明け、大泣きした。
結局、新学期からも登校せず、子育てを巡って夫婦げんかに。翌朝、妻あかねさんから本を渡された。「子どもを信じること」(田中茂樹著、さいはて社)。先回りし、価値観を押しつける親の危うさが書かれていた。ぜんぶ自分のことだ、と思ったという。
「子どもが転ばないように、勝手に石をどけようとしていた。先回りはやめて、自分たちが変わろうって決めました」
二〇一八年、妻が産業カウンセラーの資格を取得したのをきっかけに、夫婦二人で「びーんずネット」の活動を始めた。不登校に関するセミナー開催のほか、不登校だった人々の「その後」に着目した事例集「雲の向こうはいつも青空」を年二回発行。今年三月で五冊目になった。
リアルで等身大の不登校を立体的に伝えるため、不登校の経験者や保護者、支える人々ら、一冊で七人のインタビューを紹介する。つづられているのは、正解のない、七人七色の雲と青空だ。読者は全国に広がり、「安心した」「勇気をもらった」との声が届く。
「不登校のその先はどうなるのか。悩んでいたあの時、まさに自分がほしかったものなんです」
長男は今、登校のない通信制高校の二年生。今年二月、肩まであった髪を切り、ファストフード店の厨房(ちゅうぼう)でアルバイトを始めた。やけどした手を見せるのも、どこか誇らしげだ。
「これで万々歳とは思わないけれども、親としてじんわりうれしい」。ほおが緩んだ。(石川修巳)
<びーんずネット>代表は妻の金子あかねさん。「まず、親が幸せになる」をキャッチフレーズに、気づきや学びの場となるセミナーをオンラインで開催。ほかにインタビュー事例集「雲の向こうはいつも青空」(税込み1100円)の発行など、不登校をテーマに活動している。詳しくはホームページへ。
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記事に出てくる「漢字のない国へ行きたい少年」は読み書き障害と思われます。小学校は毎日のように漢字の小テストがあります。先生は親切心ですが、読み書き障害の子どもにとっては、たまったものではありません。多くの学校は読み書き障害のない前提で学習を進めているし、読み書き障害のスクリーニングもしないので、苦しむのは子どもという事になります。
発達性読み書き障害の研究者で有名な宇野彰先生によると、学童期で日本語の読み書きで7~8%、英語になると10%存在すると言います。そのグレーゾーンまで含めると、無視できない数となっています。にもかかわらず、字が下手糞、書写が遅い、音読の家庭学習が不十分等といわれなき中傷を昔から受け続けてきたのです。しかし、現代は読み書き障害が発達障害の一つとして国際的に認知されているのです。これが不登校の主要な原因なら、学校は合理的配慮の不作為を問われ責任を追及されても仕方がありません。
不登校の原因は学習の問題だけではないですが、まじめな子どもであればあるほど、自分ができないのは他人がもっと頑張っているからに違いないと思い、自分を責めだんだん登校が苦しくなっていきます。学習障害を契機とする不登校だけは学校の力で防止してほしいものです。