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ドローンパイロット・高梨智樹さん(21)

障害でも大空飛べるドローンパイロット・高梨智樹さん(21)/神奈川

毎日新聞2020年10月17日神奈川県

小型無人機・ドローンは、撮影や物資の輸送、災害現場での人命救助など、幅広く活用されている。厚木市のドローンパイロット、高梨智樹さん(21)は、航空機などの運用に支障がある場所を除いてどこでも飛行活動ができる国の特別許可を取得。行政から災害時の被災現場の状況の把握を要請されるほか、映画の空撮や橋の安全点検など、多岐にわたる分野で活躍している。【聞き手・長真一】

――ドローンとの出会いを教えてください。
◆僕は知力や言語の発達には遅れがないのに、読み書きがうまくできない学習障害の一つ「識字障害」があり、日常生活でも急に吐き気が起きる「周期性嘔吐(おうと)症」があったため、小学校へもあまり通えなかった。外に出て遊ばない子だった僕に父親が勧めたのが無線操縦のヘリコプターだった。ドローンはその延長でインターネットで知り興味を持ったが、当時は完成した既製品がなかった。中学1年の頃、海外から機材を輸入して始めたのが最初だ。

――中学生で海外から輸入した機材を作るのは大変だったのでは。
◆幼少期からゼロベースの形のモノを工夫したり分解したりして、何かを作りだすのが得意だった。それに、性格的にできないことをできないままにするのが嫌。小学生時代からパソコンを使い始め、動画サイトで識字障害のツールとして役立つ音声読み上げソフトがあることを知った。ソフトを駆使しながら自分で知りたい情報を調べていたので、ドローンに関する情報も徹底的に収集して、英語は翻訳機能で日本語に変換。あとは読み上げ機能を使い理解できるようにした。16歳で挑んだ国内大会の初レースで優勝し、日本代表として世界大会出場も果たした。

--現在の職業にまでなったドローンの魅力はなんでしょう。
◆ドローンはカメラを搭載して、手元で撮影現場をリアルタイムに見ることができ、安定性と手軽さがある。僕の場合はゴーグルを着けて操作するので、自分が飛んでいるように見える。大空を自由に飛べる。シミュレーターでは感じられない風の具合やリアルさが全然違うところに一番の魅力がある。

--ドローンの会社「スカイジョブ」を父の浩昭さんと設立しています。
◆スカイジョブではドラマや映画、CMなどの空撮のほか、橋梁(きょうりょう)やビルのひび割れなどを見つける安全点検作業などにあたっている。僕が操縦して瞬時に突風などの状況に合わせ対応する操作をAI(人工知能)に覚えさせるなど、特殊な訓練を必要とせずに誰でも飛ばせるドローンの開発もしている。

――操縦の指導はしていないのですか。
◆スカイジョブの業務内容にはないが、提携しているドローンスクールで技術的な指導をして、パイロット資格の認定書の発行にも携わっている。現場の状況次第でドローンを瞬時に操作するには、考えながら飛ばしていては無理。ゴーグルを通してリアルな場面をどう飛ばすかということを体に覚えさせることが必要だ。僕は訓練として必ず週に1回、約2~3時間は飛ばしている。
「活き活きと生きて」

――ドローンと出会い、いまの生き方に飛び立つまでをまとめた著書「文字の読めないパイロット」を8月に出版しました。
◆識字障害があるので字を書くことや文章の点検はできないけど、出版社の方から「同じ障害を持つ人たちを少しでも勇気づけられるから」と言われ、僕自身も「識字障害」という障害を理解してほしいと思って本にまとめた。障害を抱えるなど、同じような境遇の人やその家族に読んでほしい。できないことがあっても、周囲の支援や便利なツールを活用しながら、「自分は何ができるのか、何をしたいのか」という自分の道を見つけ、「活(い)き活きと生きてほしい」というメッセージを込めた。

--今後の目標は。
◆小学生の頃からヘリコプターのパイロットになりたいと思っていた。僕はこれまで多くの人に助けられてきた。だから、今は多くの人の助けになるドクターヘリのパイロットになりたい。免許を民間で取得するには多額の資金が必要になるので、いまは父親と立ち上げた会社を大きくして、夢を実現させたい。=毎週土曜日掲載

■人物略歴
高梨智樹(たかなし・ともき)さん
1998年、厚木市生まれ。高校2年の2016年、初参戦した国内ドローンレース大会で優勝。日本代表として、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催された世界大会など数々の海外大会に出場している。17年、父浩昭さんとドローン操縦・空撮会社「スカイジョブ」を設立。

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 「21歳ドローンパイロットは弱みを強みに変えた 」08/20から二回目の掲載です。

文字が読めなくても音声読み上げソフトがあることを知れば、ソフトを駆使しながら自分で知りたい情報を小学生時代から調べたという彼の好奇心こそ大事だなと思うのです。

それを面白がって、会社にしようと勧めた親の度胸にも脱帽です。おそらく彼は政府公認のドローンパイロットでスポンサーもついているので、年収は1000万を超えると思います。

こうした、発達障害の方の成功体験を紹介しても、たまたま環境が良かったとか、もともと優れていたなど、特別扱いしてしまう風潮があったり、「感動ポルノ」(障害者を登場させて感情を煽る)だと揶揄する向きもあるのですが、それは間違いだと思います。この話をそのまま生活や学習で苦労している子どもたちに伝えてほしいと思います。

プロサッカーや野球の選手になりたい、アニメーターになりたいと普通に子どもたちが思うように、ドローンパイロットになりたい、トム・クルーズのような役者になりたいと彼らが思えるように、もっともっとこうした「好きなことを仕事にした人」の話を広げて、子どもたちに勇気と憧れを与えてほしいと思います。