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インクルーシブ高校教育

【インクルーシブ教育最前線】卒業生の4割が「進学」神奈川の県立パイロット3高校

09月28日【時事通信】

進路は分散
知的障害のある生徒が他の生徒と共に一般学級で学ぶ、神奈川県立のパイロット高校3校から2020年の春、1期生29人が卒業した。入学者選抜がある高校段階では全国的にも珍しい、インクルーシブ教育の実践だ。

20年度からは、受け入れ校を14校に増やして全県をカバーする。注目された卒業生の進路は、約4割が「進学」。同県の桐谷次郎教育長は「障害のある子たちの選択肢が増えた意味は大きい」と話している。

県教育委員会は、15年度に茅ケ崎、足柄、厚木西の3県立高校をパイロット校に指定。それぞれの高校と連携した近隣の各中学校の校長が、軽度知的障害相当と認めた生徒を受け入れてきた。中には、発達障害の傾向が強い生徒もいる。

3月に卒業した3校の全生徒29人の進路を見ると、4年制大学1人、専門学校3人に加え、職業訓練校へは8人と、上級学校に進んだのは全体の41.4%に上った。他は、就職が13人、就労移行支援など福祉関係の進路が4人だった。

18年度の同県立特別支援学校高等部知的障害教育部門の卒業生1038人のうち、上級学校に進んだのは16人と1.5%にすぎない。おおむね卒業生の3割が就職、7割が福祉関係の進路という現状と比べると、パイロット校3校の進学の多さが目立つ。

県教委の田所健司インクルーシブ教育推進担当部長は「特別支援学校の進路と比べると、上級学校に行きたい要望があり、それが一定程度かなっている状況が、1年目にして見えてきている」と評価した上で、背景を次のように分析した。

「一つには、進路選択をする際に、高校の教育課程で勉強することを前提にしているという意味では、進学を望む生徒が集まったのかもしれない。特別支援学校高等部のカリキュラムは、進学より就労とその後の定着を意識している。この制度で入学した生徒は、教科を満遍なくできなくても、得意な教科のある生徒も多い。高校のカリキュラムで学ぶことで進学に結び付いたのではないか」

田所部長は、さらに「ここに注目しているが、もう一つは」と続ける。
「特別支援学校では就労のウエートが高いが、高校はさまざまな進路を選択するのが特徴だ。障害があっても、他の生徒と同じ環境の中で学ぶことで、大学や専門学校に行きたいというモチベーション(意欲)を持ちやすいのだと思う」

卒業生29人全員の進路が決まった。進学以外の生徒の進路についても、田所部長は「未定者が多いと、特別支援学校の方が良かった、となりかねないが、各校が早い段階から進路を開拓し、丁寧に指導した結果だ」と言い、胸をなで下ろしている。

実際に、障害のある生徒を受け入れ、送り出したパイロット高校の現場は、この結果をどう見ているのか。

茅ケ崎高校で3年間、障害のある生徒たちを見てきた清宮太郎前校長は再任用で現在、県立高校定時制で教えている。

清宮教諭は「高校でのインクルーシブ教育は全国でも珍しい取り組み。受け入れ前には、出口(卒業後の進路)はどうなるのか、と言われた。答えはなかった。頑張ります、としか言えなかった」と振り返る。

特別支援学校は、就労に力を入れているのに対し、同校の卒業生で就職するのはごくわずか。同校は、ほとんどの生徒が進学する中で、この取り組みの当初は、障害者就労についての進路指導のノウハウも人脈も持っていなかった。

そうした不安や懸念を清宮教諭が払拭できたのは、1期生が入学した直後の保護者会だった。ある保護者が言った。
「うちは高校3年間を楽しめればいい。将来は次にまた考える」
清宮教諭は「この人たちとなら新しい社会を創れる」と強く共感した。

「生徒にとっては青春の3年間。集団の中で、部活動や学校生活を楽しむ場。将来については、3年間の中で見付けて次のステップにつなげればよい。高校は自分を探し、自分をつくる場だ。特別支援学校では、企業の特例子会社を目指すことが多いかもしれないが、生徒の可能性は無限だ」

特例子会社とは、障害者の雇用促進のために、雇用に当たって特別な配慮をする子会社のことで、認定を受ければ親会社やグループ全体の障害者雇用分として実雇用率を算定することができる。

障害者にとっては、合理的な配慮の下、障害のある仲間と一緒に働くことができるほか、最低賃金が保証され、安定した収入を得ることができるメリットがある。だが、清宮教諭はこう考えている。

「入学前、子どもたちの最大の心配事は、出口ではない。友達ができるか、勉強についていけるか、高校生活を楽しめるかだ。共に学んだ出口の段階で障害のある人だけが集まる特例子会社という小さな社会に戻らなくてもよいのではないか。急がなくてもよい。高校卒業後にワンステップ入れて、社会に出ればよい。高校でせっかく共に学んだのだから、次のステップは共に生きることだ。知的障害のある生徒が即就職、福祉施設に行く、という図式を塗り替えられたのは大きい」

神奈川県は20年度から、知的障害のある生徒を受け入れる高校を14校に拡大し、全県をカバーする体制が出来上がった。定員は、各校各学年21人。

パイロット校では、連携する中学校からの進学に限定していたが、20年度からは県内どこの中学校からも入学できるようになった。特別支援学校高等部に加え、インクルーシブ教育実践推進校14校が、新たな進学先として広がった。

20年度の入学者は190人。各校5~19人とばらつきはあるが、全体の定員294人に対し、64.6%が埋まった形だ。

県教委の田所部長は「率直に言うと、不合格者が出るような、定員超過のスタートでなくてよかった。制度としては選抜なので、不合格者が出ることもあるが、心情的には不合格者が出て、違う進路を選択せざるを得ないのは残念。そういう意味では、不合格者が出ない形でスタートできた。入学者が少ない学校もあるが、必要とされていない状況というわけではない。進路選択の一つとして一定の評価は得られたと感じている」と語る。

パイロット校3校は、丁寧な指導を行ってきた。茅ケ崎高校では例えば、主要教科など習熟度に差がつきやすい科目では2人の教員が配置され、チーム・ティーチング(TT)を行っている。そうした3校の経験から得られた知見も大きい。

田所部長が続ける。
「1年生で入学した段階の支援と、2、3年生と進級していく中での支援は必要度が変わってくることが、生徒も教師も分かった。すべての授業がTTである必要はない。特別視する必要はない、と感じた教員も多い。パイロット校の成果を広めていきたい」

〔横浜総局・田幡秀之〕(時事通信社「内外教育」2020年7月17日号より)

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後のことは後で考えればいいという親の意見に、平等と公平を行きつ戻りつしてきた昭和の障害児統合教育の戸惑いを思い出します。支援学校と普通高校を比べるのも無理があります。支援学校は高校卒業の資格はないので入学の目的が違います。知的遅れや発達の凸凹があっても学習がしたいという本人の希望があるならば、それはかなえられるべきとは思います。しかし、それが一律に教育課程の定められた後期中等教育や高等教育なのかどうかは別の問題ではないかなとも思います。一つの学校の中に個性に応じた異なる教育課程の存在を認めて行けばよいことですが、文科省はまだそこまでは言い切っていません。

インクルーシブ教育というならもっと小さな年齢から実現すべきで、高校からというのは違和感があります。少子化私学志向で公立校への入学志望者が減ってくる中で、支援学校の高等部だけが膨れ上がり、慢性的な教室不足に対する苦肉の策ではないかとも勘繰ってしまいます。高校時代、青春時代を普通高校で謳歌してほしいというのも、特別支援学校の高等部の人が聞けば妙な感じがするかもしれません。

進路については親の希望もありますが、高校生活に適応できる人から中学で推薦したのですから、進路の結果は妥当な結果だと思います。逆に卒業時点の進路先だけを見れば、就労支援に特化した高等支援学校と大差ないという見方もできるので、経過調査など質的な比較も同時に調査する必要性を感じます。上級学校進学といっても、何か就労モラトリアムような感じもしますし、特性に応じた教育が引き継がれたかどうかも気になります。

ただ、記事にもあるように、これまで支援学校の進路指導は就労のハードルを高くして福祉進路に傾斜していたのは事実です。全国的にはこの課題を、高等支援学校設立で100%就労を目指し、その流れに各支援学校が追随してくるような仕掛けを作って障害者就労を伸ばすようにしていました。神奈川の場合は、ここにインクルーシブな高校教育で仕掛けてきた構図になっているのです。

どのやり方が正解というわけではありません。障害者就労をもっと伸ばすことで、どんな職場にも障害のある人やマイノリティーの方がいて当然という社会の実現は、私たちが目指す社会ではあることは確かです。